●すべての人がお客さま
急成長中の分野は他にもある。ファッションだ。
ファッション事業部門の統括事業本部長、ジェームズ・ピータースさん自身が、
「アマゾンの中で最もエキサイティングで、最も急成長を遂げているカテゴリーです」
と胸を張る。
実際、ファッション分野におけるアマゾンの動きは目まぐるしい。先月は米国で「プライムワードローブ」という新サービスが発表された。一定の数のアイテムを試着したうえで、7日間のうちに購入するか返品するかを選択できる。まさに、自宅が試着室になるサービス。まだ正式にスタートはしていないが、ネットでの服の買い方に大きな変化をもたらすのでは、と話題を呼んでいる。
昨年からは東京ファッションウィークの冠スポンサーにもなった。東京ファッションウィークといえば、パリコレクション、ミラノコレクションなどと並び世界的にも大きな影響力を持つファッションショー。ハイブランドがずらりと顔をそろえる。
ターゲットはどこなのか。プライムワードローブは、外に服を買いに出かけるのが面倒な人、服を買うことに時間と労力をかけたくない層を狙っているようにみえるが、ファッションウィークでハイブランドに注目するのは、コアなファッション好き。どっちつかずになりませんか?
「ターゲットはすべての人です。すべての人がお客さまだからです」
とピータースさん。ピータースさん自身、一昨年にアマゾンに入社した直後は、まず顧客をセグメントしようと考えた。ターゲット設定はどんなビジネスでも定石。だが、創業者であるジェフ・ベゾスのビデオを見て、考えを大きく変えた。
「ベゾスは明確に、カスタマーは服を着る人全員だ、と言っていた」
●迷いのなさがエンジン
そこで発想を転換。できる限りの品ぞろえを提供し、顧客が一番早く欲しいものを見つけられるようにすること、つまり、顧客自身が「自己セグメント」できることを目指したのだ。
「美しい写真や言葉で、サイトのルックアンドフィール(見た目と操作感)を改善する。関心を持ってもらえるものを打ち出す。日々、取り扱いブランドを拡充する。これにより、お客さまのセルフセレクションを助けています」
アマゾンといえばサイトの各商品の表示の統一感が特徴だが、ファッションも例外ではない。「写真の最初の1枚の背景は白で、画像全体の85%以上を商品が占めていること」などの規定がある。ブランドにとって、これは独自の世界観を表現する際の足かせにならないか。ピータースさんはこう説明する。
「お客さまは検索結果が一貫していて、見たいものが早く見つけられることを望んでいます」
ここでも、貫かれるのは「顧客第一」と「品ぞろえ」「価格」「利便性」だ。
「1枚目の写真には規定がありますが、2枚目以降は独自に追加できる。アマゾンを経由してブランド自身の特徴も伝わる。すばらしい機会を手に入れることができるのです」
アマゾンは、ピータースさんがこれまで携わってきたどの企業よりもスピーディーだ。
「単に速いだけではプラス、マイナス両方の意味がある。アマゾンの特徴は意思決定からの速さです。意思決定までには深い分析があります」
シンプルなビジョンとそれに基づいてなされる意思決定には、迷いがない。社員全員がそれを信じている。その迷いのなさが、アマゾンを加速させる最大のエンジンなのだ。(編集部・作田裕史、市岡ひかり、高橋有紀)
※AERA 2017年7月24日号