「地球一」の追求は、相当なハードワークを強いるのでは?と問うと、渡辺さんは、

「確かに仕事の密度は濃いし、質の高さも要求されますが、メリハリを利かせて仕事をエンジョイしている人が多いですよ」

 と答えた。自宅での仕事を可能にする「ワークフロムホーム」という制度があって、月に数回はこの制度を利用して、自宅でたまった書類を片付けるという。両親の介護子育てなどの事情がある社員を想定して作られた制度だが、それに当たらない渡辺さんも使うことをさまたげられない。その他の平日も、朝は7時に出勤。夕方6時には退社して、休日は庭いじりを楽しむ余裕もある。

「Work Hard, Have Fun, Make History.」

 アマゾンジャパンのカフェテリアに掲げられたワークポリシーを、地でいく働き方だ。

 明文化されたプリンシプルやポリシー以外にも、アマゾンには独特の習慣がある。

 法人向けにクラウドサービスを提供するアマゾンウェブサービス(AWS)の日本法人で社長を務める長崎忠雄さんは、その象徴は「プレスリリース」だと話す。サービスやプログラムを開発しようというときは最初に、それを公に発表する際に使うプレスリリースを書き上げるというのだ。

「作りたいものへの思いが強すぎると、方向性がブレてしまう。お客さまがいま抱えている問題をどう解決し、どんなメリットが得られるのか。それをまとめておくと、迷ったときもそこに立ち返ればいい。結果的にインパクトがある製品が生まれる」

 これは、世界中のアマゾンに共通する手法だという。

 大人数で会議をすると役職などが気になって発言しにくい場面が生まれるから、会議の参加者は「切り分けた2枚のピザが行きわたる程度の人数まで」という「Two Pizza Rule」もある。

●6年で顧客10万以上

 06年、AWSは世界に先駆けてクラウドサービスの提供を開始。現在は、世界で190カ国以上、数百万の顧客を抱えるまでに成長した。日本では09年にオフィスを構え、データセンターを設置した11年から本格的にサービスの提供を始めた。わずか6年で急成長を遂げ、日本国内だけで、大手企業や官公庁も含めた10万以上の顧客を獲得している。だが、顧客の開拓は容易ではなかった。

「人間は慣れ親しんだやり方を変えることには慎重です。しかも、サービス開始当初は私たちは『信頼の貯金』がない。お客さまの元に足しげく通って顔を覚えてもらい、ご要望があったサービスを一つ一つ追加して、またご提案することの繰り返しでした」(長崎さん)

 最優先事項は言うまでもなくセキュリティー。データセンターの建物の管理やアクセス確認などを厳重に行うことはもちろん、地震などでデータセンターが止まってしまうリスクにも備えている。顧客はデータを日本に置くのか、海外に置くのかを選択できるほか、国内3カ所のデータセンターはそれぞれ異なる活断層帯に位置し、電源やネットワークも別系統。万一、一つが止まっても他の二つがカバーできる体制を取っている。

「お客さまからの要望で何かを改善したら、それを他の100万社以上のお客さまにも使っていただける。『規模の経済』が働くのでサービスの質は常に向上していきます。この原理はコストにも働くので、これまで60回以上も値下げしました」(同)

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