●入社当時とは別の会社
会社に残っていたスタッフが、影響を最小限に抑えるために「どの荷物をどのFCに振り分けるか」「配送が遅れる可能性があることをユーザーにどう伝えるか」など、対応する準備を済ませていたのだ。鳴坂さんはリーダーとして、それを文字通り最終確認するだけだった。
「誰も経験したことのない状況で、マニュアルもない。そんな中でも、アマゾンが目指す『顧客第一』を担当者一人一人が実践し、自ら判断して行動できた。本当に感動しました」
アマゾンは、「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」というビジョンを掲げ、「品ぞろえ」「価格」「利便性」を追求することでこのビジョンを実現する、としている。「顧客第一」は、取材を進めるなかで、繰り返し聞くことになった言葉だ。
アマゾンが日本に上陸したのは00年。鳴坂さんがアマゾンに入社したのが04年。彼女は、会社とその成長の歩みを知る貴重な存在だ。入社当時、アマゾンが扱っていたのは、本、CD・DVD、家電とおもちゃだけ。
「入社当時とは、別の会社のようです」
感慨深げにそう振り返る。
米国で開発された仕組みを日本に導入するプログラムマネジャーとして入社。現在では一般的になったコンビニ配送など、新しい配送サービスが導入されるたびにそれに見合うシステムを構築してきた。
「一般的な会社は、仕組みやプロセスが変わるのを嫌がる。でもアマゾンでは『効率化するなら、どんどんやろう』と新しいことにアグレッシブ。仕事はやりやすかった」
●日本向けに落とし込む
やると決まれば、実行のスピードは驚くほど速い。ただ、決めるまでは、本当に顧客のニーズに合致しているのかどうかを徹底的に検証する。苦労したのは、米本社に日本独特のニーズを理解してもらうことだ。
例えば、「予約販売」の仕組み。日本ではごく一般的だった予約販売だが、米国では「予約しておくと発売日に自宅に商品が届く」というコンセプト自体になじみがない。具体的な利用シーンを丁寧に伝える必要があった。
「『予定した予約個数になったら販売をストップする』機能も必要になるわけですが、そうした当たり前のことを納得してもらうのが難しかった。ただ、一度理解してコミットしてもらえれば、そこからは本当に速い」
プライムナウ事業部の事業部長・永妻玲子さんも、米本社と議論を重ねながら、日本で新規事業を立ち上げてきた幹部の一人だ。入社は09年。最初の仕事は、日本版「アマゾンプライム」の拡充だった。アマゾンプライムは、同社が成長の柱の一つに位置づける会員制サービスだ。
その後も、日本の独自サービスであるポイント事業のマネジメントを担当。米国の認識は「ポイントは値引きが難しい場合の代替機能」だったが、日本が目指すポイント制は、マーケティングツールであり、顧客とのコミュニケーションツールでもあった。
「サービスの質は、細部に宿る。日本人向けにしっかりと落とし込んでいく必要があった」
永妻さん指揮のもと、15年11月には、地域限定でプライム会員向けに1時間以内に商品を届ける「プライムナウ」がスタート。ここからアマゾンの「利便性」が加速していく。