日本には別の理由もある。北朝鮮の弾道ミサイルに米国の関心をより引きつけたい。日本全土がほぼ射程内の中距離「ノドン」は実戦配備済みだが、米国には届かず、脅威認識の共有が難しい。北朝鮮の「ICBM」が米国を過度に刺激しないよう高角で発射され、日本海に落ちた「脅威」を訴えない手はない。
●ロシアは「中距離」と反論
ただ、冷戦後に意味がぼやけた「ICBM」で北朝鮮を相手に騒ぐ危うさもある。米パシフィック・フォーラムCSISの核政策担当ディレクター、デビッド・サントロ氏は5日付の小論で、次の3点について米政府に警鐘を鳴らした。
(1)北朝鮮がICBMで米国を抑止できると誤解し、近隣国に対しさらに危険な行動に出る
(2)北朝鮮が、ICBMより飛距離が短ければ、米軍が駐留する同盟国日韓に届くミサイルは開発していいと誤解する
(3)日韓が、米国は米本土が脅かされる時しか北朝鮮のことを考えないというおそれを抱く
旧ソ連のICBMを引き継いだロシアは、北朝鮮が発射したのは「中距離」だと米国に反論。北朝鮮の「ICBM」宣言に乗った日米は今後どうするのか。北朝鮮の核・ミサイル問題に詳しい政策研究大学院大学の道下徳成教授は、「ICBMと呼ぶかどうかではなく、米国のハワイや西海岸、東海岸にも届くのか、射程や精度を見極めて具体策を議論すべきだ」と語る。
トランプ氏は北朝鮮ミサイルの米国到達について、「そんなことは起きない」と1月にツイート。今回の発射直後は、「韓国と日本は我慢の限界だろう」となぜか他人事だ。米国による軍事攻撃の“レッドライン”越えとの指摘もあったが、「米国第一」を支持者に訴え続けるツイッターに、ICBMという言葉や、国民にとって危ないのかどうかの話は出ていない。
(朝日新聞専門記者・藤田直央)
※AERA 2017年7月24日号