北朝鮮が「ICBM(大陸間弾道ミサイル)発射成功」と宣言した。一線を越えた北朝鮮に、安倍晋三首相はいささか興奮気味。米国は不気味な沈黙を続ける。
「ICBM発射成功との発表は、北朝鮮に真剣に対話する意思などないことを示す。圧力を一段引き上げる必要がある」
安倍首相は7月6日の日米韓首脳会談で、トランプ、文在寅(ムンジェイン)両大統領を前に訴えた。ただ、共同声明文書では「大陸間の射程を持つ弾道ミサイル発射を非難」と回りくどい表現に。「ICBM」の明記に韓国が反対した。文氏は金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長との対話に意欲を示す。
●日米で経済制裁強化
そもそも4日に北朝鮮が発射した弾道ミサイル「火星14」とは何か。防衛省は、高度は過去最高の2500キロ超で、縦長の放物線を描き、男鹿半島沖約300キロに落ちたと推定。発射角度を変えれば最大射程は5500キロ超とみられ、
「飛距離から言えばICBM級」(稲田朋美防衛相)だ。
今回の発射で、確かに北朝鮮の脅威は増した。5月発射の「火星12」の高度2千キロ超を上回った。射程1万キロ超の可能性がある「テポドン2」もあるが発射台は固定式で、発射兆候の把握は移動式の「火星14」のほうが格段に難しい。弾頭に積める小型核兵器を開発済みの可能性もあると防衛省はみる。
それでも北朝鮮の「ICBM」には留保がいる。5500キロ超とは、冷戦期に大量の核兵器で対峙した米国と旧ソ連の大西洋をまたぐ距離からきている。北朝鮮から米国へ撃てばアラスカがぎりぎり。ハワイの太平洋軍司令部に届くかどうかだ。
ICBMは、大気圏外から再突入する際に弾頭が熱や振動で壊れないかなどの検証も経て実戦配備となる。他国は軌道しか確認できない中で、北朝鮮の「世界中を攻撃できる最強のICBMを保有した堂々たる核強国」という主張をうのみにできるのか。完成度への疑問は、韓国が日米との共同声明に「ICBM」明記を拒んだ理由の一つだ。
それを承知で米国が「ICBM発射を強く非難する」(ティラーソン国務長官)と言い切り、日本が「ICBMの可能性が高い」(菅義偉官房長官)と同調するのは、懲りない北朝鮮への経済制裁を強めたいからだ。共同声明では北朝鮮と関係の深い中ロを指し、「国境を接する国々はさらなる努力を」と求めた。