「私の研究室でも、猫の研究に興味を持つ学生が多いです。でも犬ほど研究が進まないのは、猫の情報を得るには不可欠な採血がしにくいというのが大きい。猫を保定して注射器で採血できたとしても、興奮しているので血液の成分が変わり、通常の状態がわかりにくいのです」
●ゴロゴロ音で傷治す説
そんな中、今のところ解明が進んできた猫の言葉は、大きく二つ。ミャー、ニャーなどいわゆる鳴き声と、のどで鳴らすゴロゴロ音だ。
「猫は、人に何かしてほしいと訴えるときに鳴き声を発する。ただし、実はこれは人に対してだけ発せられるもので、繁殖行動やけんかのとき以外では、猫と猫がミャーミャーなどと鳴きながら会話することはほとんどないですね」(太田教授)
猫はネズミ捕りの名人だった頃の習性が今も色濃く残っているが、これもその名残。存在を気づかれやすい鳴き声より、体から発するにおいや動作で、猫同士の会話は静かに行われるという。つまり猫がミャーミャー鳴いていたら、人にピンポイントで何かを話しかけているサイン。
「猫との信頼関係のために、人のほうも『ちょっと待っててね』など、言葉で応対してあげるのがいいと思いますよ」(同)
もうひとつの猫語、ゴロゴロ音の意味はさらに複雑だ。「気持ちがいい」時に発するとか、逆に「ストレスを感じている」時に発するなど、その意味は解明されつつあるが、太田教授はカリフォルニア大学のこんなゴロゴロ研究にも注目している。ゴロゴロ=低周波治療器説だ。
「ゴロゴロは20~25ヘルツの比較的低周波の音を発することがある。これにはネズミに噛み返されて生傷が絶えなかった猫たちが、それを自分で治すために発するようになったという説もある。この低周波は、近くにいる人にもある種の癒やし効果があるといわれます」(同)
飼い主が疲れた時や落ち込んでいる時、はたまた怒っている時など、猫が「いつのまにか近くで座っていた」とか、「ひざの上に乗ってきた」という体験をする飼い主は多い。これは「人の心拍数の変化を敏感に感じ、何が起きたのかチェックしにくる行為」(同)。同時に傷ついた飼い主へ、低周波のプレゼントと考えることができるかも。ちなみに前出の翻訳機によると、猫語で「ありがとう」は「ンニャニャ、ミャア~ニャオ~ン」。ご参考まで。
(ライター・福光恵)
※AERA 2017年6月19日号
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