09年9月早朝、鉄筋コンクリート3階建てのマンションの2階外廊下が突然、長さ15メートルにわたり崩れ落ちた。通路下に止まっていた軽自動車はつぶされ、住んでいた9世帯は退去した。マンションは当時築35年。崩落の一因は施工不良にあった。
8年近く経っても撤去できないのは、「住民合意の壁」があるからだ。市の都市建設部の担当者は、説明する。
「放置しておくと危険なので早く撤去・解体したいが、所有者の合意形成ができない」
限界マンションが放置されればどうなるのか。先の米山さんは警鐘を鳴らす。
「建て替えができたり再開発が行われたりすれば、限界マンションが放置されることはありません。しかし、解体費用を捻出できない時は放置される可能性があり、そうなると治安が悪化し、ひいては周辺の地価を下げることになりかねません」
●所有者間の活発な意見
マンション先進国の欧米の区分所有法では、建物を徹底的に維持するための仕組みがつくられている。
アメリカのCPM(不動産管理士資格)保有者で、東京都マンション管理士会の副理事長でもある若林雪雄さんは言う。
「アメリカでは、所有者の意識が高く自身の権利義務関係にも厳しい。所有者間の活発な意見交換が可能で、一般組合員は株主、理事会は会社組織の取締役会のような機能を果たします」
アメリカではほとんどのマンションは、管理組合が直接、現場駐在マネジャーを雇用し、マンション管理会社は部分的なサポートを行うに過ぎない。現場駐在マネジャーが管理組合の立場でサポートし、理事会の意思判断により清掃、点検や補修などの業者選定を行うなど、利益相反関係を防止する仕組みが成り立っているという。
「管理組合は自立しガバナンスを確立して、行政や第三者の専門家の支援などを得て、理事会のリーダーシップを維持しながら、経済合理性にのっとりマネジメントを行っています。そのため区分所有者の利益を図ることが優先され、スラム化もしにくいし、予防的な手も打ちやすいのではないか」(若林さん)
(編集部・野村昌二)
※AERA 2017年5月29日号