●電子と紙は共存できる

 漫画の発表媒体数と作品が増えれば、刊行される単行本も増える。単行本の年間刊行点数は1万点前後。ひと月あたり、800~900作品もの新刊が発売される。

 現実の書店の売り場は、ウェブとは違い、スペースに限りがある。何をどう並べるかも売り場の課題だ。ジュンク堂書店池袋本店では、多くの作品にチャンスをという視点から、人気作品も極端な多面展開はしない。

 コミック担当の田中香織さんは、この10年来の客の変化に驚いている。

「売り場で『これ読んだ?』『おもしろいよ』というお客様同士の会話を聞く機会が増えました。好きなタイトルを、薦め合っている印象です。漫画がこれほど市民権を得るとは、思っていませんでした」

 漫画原作のドラマや映画、パチンコやパチスロとのコラボが増えた。

 露出が増えれば問い合わせも増え、単行本の売り上げも伸びるが、露出の機会が終わって一気に売り上げが落ち込んだ作品もある。「作品が消費されているのでは」と懸念したこともあったが、近年はファンを得て、そのまま売れ続けるケースが多い。作品が多くの人に読まれることの力を、販売の現場で感じている。

 おもしろい作品を見いだすべく自身もアンテナを張っているが、ファンの声に背中を押されることもしばしばだ。

 多くの作品の中から、どの作品を人に薦めたいか。田中さんが実行委員を務めるマンガ大賞は、そんなコンセプトから生まれた。今年で10年目。既刊8巻までの作品を、企業等の協賛を得ずに発信する。いわば、漫画読みのための、目利きの賞だ。今年は『響 小説家になる方法』(小学館)が大賞を受賞。20倍以上に売り上げを伸ばし、既刊6巻で累計発行部数80万部を突破した。

 SHIBUYA TSUTAYAのコミック担当、坂間大祐さんは、この1年で、ウェブコミックの勢いが増したと語る。SNS発信で人気に火がついた作品、ピクシブで人気を集めた作品、漫画アプリのオリジナル連載作品。

「最近評判になった、アタモトさんの『タヌキとキツネ』は、ツイッターで発表されたほのぼのキャラクターものですし、ブログ発の『鴻池剛とのぽんた ニャアアアン!』は老若男女、幅広い年齢層によく売れました」(坂間さん)

 たとえば、comicoなど、ウェブの漫画媒体が複数の版元から単行本を出版するケースもあるため、版元ごとの陳列ではわかりづらいだろうと、1年ほど前からウェブ漫画専用の棚を用意した。

 スマホを片手にした客を、売り場でよく見かけるようになった。

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