「少年ジャンプ」副編集長で「少年ジャンプ+」担当の細野修平さんは、「ウェブ媒体は、読者からの反響がダイレクトに返ってくる。18年間編集者をやっていて、ここまで勢いのある作品ははじめて」と振り返る。

●王道から外れた作品も

「再生」や「発火」など特殊な能力を持つ「祝福者」らの闘いを描いた同作は、連載開始から1年、既刊4巻で累計発行部数40万部を達成した。

「ウェブには、『少年誌の王道』という本誌のターゲットから若干はみ出す、いい意味で尖った作品が集まります」(細野さん)

『ファイアパンチ』も衝撃的な描写が編集会議でネックになり、「ジャンプ+なら」と他媒体から回ってきた。

 人気作は、確実に漫画アプリの読者を増やす。「ジャンプ+」も『ファイアパンチ』と、同時期連載開始の『終末のハーレム』で、30万~40万人ほど読者が増えたという。現在の月間公開ページ数は1900ページ前後、多い月で2200ページにものぼる。ページ数から見れば、本誌を超える勢いだ。

「ウェブで人気でも単行本が動かないケースもありますが、ウェブで十分採算は取れています。紙の売れ行きにかかわらず、『ウェブで読まれる』=『成功』という図式も生まれつつあるのでは」(同)

 漫画アプリの担当者たちが、最も力を入れているのが、未来のヒット作をつくる新人の発掘だ。各社取り組みを行うなか、才能の集まる場として異彩を放っているのが、イラスト投稿・交流サイトpixiv(ピクシブ)だ。月間利用者数はのべ4千万人。同サイトで、プロ、アマ問わず、描き手の投稿したイラストや漫画が注目され、出版に結びつくケースが増えている。

 ピクシブ取締役会長の永田寛哲さんは、「ここまでの規模の成長は想定外」と言うが、「絵とストーリー、異なる二つの才能が要求される『漫画』だが、絵一枚で勝負できる土俵があるとわかったためでは」と分析する。

 同社は基本的に作家に干渉しないスタイルを貫いている。

「営利主義に走るのではなく、描き手の自由度の高い発表の場であることを最優先しています。運営も参加者も、イベントを成長させコンテンツを生むことを共通の目的に掲げる、偉大な先人『コミックマーケット』に倣ってのことです。立ち上げ当初の反響から、私たちが失敗さえしなければ、未来の『ONE PIECE』や『NARUTO-ナルト-』を作る新しい才能は、ここから生まれるという確信がありました。最初の2年は、他の事業で稼いだ収益を運営に充てました」(永田さん)

 運営は軌道に乗り、サービス開始から今年で10年を迎える。昨年は出版社と共同でレーベルを立ち上げ、コミックスを刊行した。オタクの社会人男女の恋愛を描いた『ヲタクに恋は難しい』は話題を呼び、累計発行部数は既刊3巻で電子版販売分とあわせ、300万部を突破した。

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