昨年夏に東京から移住した小森谷四郎さん。野山に囲まれて暮らすのは生まれて初めて。休日、自転車で出かけるのが楽しい(撮影/工藤隆太郎)
昨年夏に東京から移住した小森谷四郎さん。野山に囲まれて暮らすのは生まれて初めて。休日、自転車で出かけるのが楽しい(撮影/工藤隆太郎)
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 いい言葉を聞いたことがない。「少子高齢化」「福祉の縮小」「年金消滅」……。私たちの老後は本当に真っ暗なのか。このまま、ひたすら下流老人化を恐れる人生でいいのか。どこかに突破口はあるはずだ。「年を取るのは怖いですか?」――AERA5月15日号は老後の不安に向き合う現場を総力取材。

 どんなに理想を思い描こうと、思い通りにはいかないのが人生。老後も「○千万円貯めなきゃダメ」とか「田舎でいきなり農業だ」などと気負わず、気づいたら移住してた、くらいがいいのかもしれない。

*  *  *

 一昨年の7月、料理人の小森谷四郎さん(62)は失意のどん底にいた。

「申し訳ないが、店は閉めさせてもらう」

 長年勤めていた東京・王子の日本料理店の店主から、廃業を告げられたのだ。ここ数年少しずつ給料が下がり、予感はあったものの、ついにその日が来てしまった。

 生まれも育ちも東京で、独身。42歳の時、年をとると賃貸は借りにくくなるからと一念発起し、終のすみかとするつもりでマンションを買った。上野駅に近い広めの2LDKで当時3800万円。80歳までのローンは長い気もしたが、65歳まで現役で働けば、あとは年金と貯金でなんとかなる。老後の安心を買ったつもりだった。

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