思うようにいかない子育てを支えてくれたのは、だいすけお兄さん、あなたの歌と笑顔と変顔でした。NHKの幼児番組「おかあさんといっしょ」で11代目うたのお兄さんが今年3月末に卒業して、早くも1カ月がたとうとしている。それなのに、母親たちは「だいすけロス」から抜け出せずにいる。どうしてそんなに、熱い視線が集まるのか。その背景には、“孤育て”に悩む母親たちの切実な思いがあった。
朝8時。テレビから聞こえてくる「みんな、元気ー?」という声は滋賀県に住む女性(30)にとって、心の支えだった。
結婚して地元を離れ、新しい土地での子育ては予想していたよりずっと孤独だった。夫は仕事で長期の出張が多く、近所に親しい友達もいない。娘は1歳ごろまで1時間おきに泣き、周りの子と比べたくなくて、支援センターからも足が遠のいた。
夜泣きに付き合ったあと、明るい部屋でお兄さんの声を聞き「あ、無事に朝が来た」と、毎日ほっとした。夕食を作るときは、娘が好きな「かぞえてんぐ」の曲をキッチンから大声で歌った。お兄さんは子育てを一緒に乗り越えてきた「戦友」だった。
AERA編集部は3月末から、だいすけお兄さんへの質問とメッセージを募集。96通の手紙とメールのほかSNSでもコメントが寄せられた。
「番組と、だいすけお兄さんに救われました」
手紙にそうつづったのは鹿児島市に住む35歳の女性だ。「テレビやスマホに子守をさせないで」という母親学級でのアドバイスに縛られて、イライラと自己嫌悪で苦しくなったころ、最初は諦めの気持ちでつけたテレビ。お兄さんの歌声に子どもも喜び、気持ちが軽くなったという。
「夫よりも子育てしてもらった」
「卒業を知りながらどんどん好きになってしまった」
寄せられたメッセージにはそんな声があふれた。
この9年間で、きっと“孤育て”は進んだ。だからこそ毎日家の中で会えるお兄さんはときにパパになり、きょうだい役もこなした。一緒に歌った曲には子どもとの思い出が詰まっていて、母親にとっては戦友……いや、それ以上に何年ぶりかの恋だったのかもしれない。(dot.編集部・金城珠代)
※AERA 2017年5月1-8日合併号