●大阪の世論が変わった
こうした中、大阪の政界は一人の風雲児によって激変期を迎える。07年から4年間、大阪市長を務めた平松邦夫氏は大阪世論の変化を最も敏感に受け止めた当事者だ。平松氏は11年11月の任期満了に伴う市長選で、大阪都構想などを争点にするため府知事を辞職し、くら替え出馬した橋下徹氏に敗れた。大阪の政治風土について平松氏はこう説く。
「昔から大阪は『お笑い100万票』の土地と言われますが、タレント候補の強さは大都市では往々にして共通するものだと思っています」
とはいえ、橋下氏の政界進出のインパクトは別格だった。橋下氏は10年4月に地域政党「大阪維新の会」を創設し、代表に就任。12年9月には国政に進出する全国政党として「日本維新の会」(以下、維新)を設立した。維新の中核的存在の橋下氏や松井一郎氏は、石原慎太郎氏や安倍晋三氏と親交を深めていく。
「自民もダメ、民主もあかんかったという人たちが、何かやってくれるやろうと期待した維新は、現実には自民よりも右寄りやったわけです」(平松氏)
在阪メディア幹部によると、大阪の制作会社がつくる番組の中で、歴史修正主義につながる“オルタナティブ・ファクト(もう一つの真実)”を流す傾向が生まれたのは、00年代中頃からだという。故やしきたかじん氏が司会を務めた「たかじんのそこまで言って委員会」(読売テレビ系)が代表的だ。タブーに切り込む本音トークが受けた。
「視聴率のいい、これらの番組が大阪の世論や空気の形成に一定の影響を与えていると思います」(同幹部)
森友学園の問題を育んだ政治・社会的背景には何があるのか。前出の平松氏は、大阪の民放キャスターを長年務めた経験も踏まえ、こう訴える。
「森友学園のニュースに最初に接したとき、ここまで大きな話になると思った人は少なかったのでは。しかし、時の総理の名前を冠した小学校名で寄付金が集められ、総理夫人が名誉校長に就くのは異常です。どう考えてもおかしいと突き詰めないと、ますますこの国は先が見えなくなる。今こそ野党、メディアの役割が問われています」
16日午後、参院予算委員会は大阪府豊中市の小学校建設現場を視察。籠池氏は、「安倍晋三内閣総理大臣の寄付金が入っております」と発言した。
前日、籠池氏から詳細を聞いた作家の菅野完氏によると、この現金授受は15年9月5日。講演で塚本幼稚園を訪れた昭恵夫人から紙包みに入った現金100万円を「主人からです。現金なので領収書は不要です」と手渡され、同7日に森友学園名義で寄付口座に振り込んだ。菅野氏は口座記録を確認したという。籠池氏は記者団の取材に、「国会で話します」と話した。
菅義偉官房長官は16日午後の会見で、「首相は寄付をしていない」と否定、昭恵夫人が個人で寄付したか確認する。何が真実なのか。重大局面に差し掛かった。(編集部・渡辺豪、大平誠、山本大輔)
※AERA 2017年3月27日号