ドイツのシリア難民の大量受け入れで欧州内に広がった混乱に乗じ、難民問題を移民問題にすり替えて「反移民」意識をあおっている。フランスやベルギーで続いたイスラム過激派によるテロ事件で、多くの犠牲者が出たことが危機感を高めている現状もあり、徹底的な反イスラム政策を強調することで、さらに支持を拡大しようとしているのだ。

 総選挙直前のオランダで退職後の生活を送る元教諭ケース・ヴァン・ダイクさん(62)は、

「政党の意見表明は以前より荒っぽくなり、ポピュリズムが成長して人気となった」

 と感じている。

「人々の選択は個々の感情に基づくものになり、『私が最優先』という狭量な考えにつながっていく。移民のようなマイノリティーとの連帯や共感の終焉(しゅうえん)です。助け合いの精神に満ちていたオランダは、もう過去のものになった」

●米の中東政策が転換

 反イスラムの空気の広がりは、中東情勢の不安定化に直結しかねない危険性をはらむ。欧州の一連の選挙でイスラム敵視発言が聞かれるだけでなく、トランプ政権下では具体的な動きが出ている。

 先月15日のネタニヤフ・イスラエル首相との首脳会談で、トランプ大統領は、イスラエルと将来のパレスチナ国家の「2国家共存」には必ずしもこだわらないと述べて、1993年のオスロ合意以降、歴代の米政権が維持してきた中東政策を転換した。1月に弾道ミサイル発射実験をしたイランへの圧力を強化することでも一致。米政府はミサイル発射を受けた追加経済制裁も発表している。国際社会がイスラエルの首都と認めていないエルサレムへの米大使館移転にも意欲を示すなど、なかなか挑発的だ。

 オバマ前政権下で欧米など6カ国が協力してこぎつけたイランの核開発を制限する核合意を破棄することはないと見られるが、日本総合研究所の寺島実郎会長は、

「常識的にはそうだが、トランプ大統領だと、なかなかそうとも言い切れないところがある」

 と懐疑的だ。

「穏健派アラブさえ巻き込んで敵に回し、ある程度収まりかけていた中東の力学のパンドラの箱をひっくり返すようなことがあってはならない」(寺島氏)

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