同様の現象は、程度の差はあれ、フランスやドイツでも見られる。

 4月の第1回投票に向けて大統領選の主要候補者が出そろったフランスでは、反移民、反EUを強く掲げる国民戦線のルペン党首が支持率26%でトップを走る。従来の価値観を否定し、既存体制を激しく攻撃して、単純かつ分かりやすいメッセージを繰り返し訴え続けることで支持を広げてきたトランプ流を、そのまま引き継ぐ選挙戦を展開している。

 ドイツは、2大政党を中心とした連立政権の枠組みが根付いた国だ。トランプ政策の対極にいるメルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)は、支持率で連立パートナーの社会民主党(SPD)に逆転を許した。首相候補としては、SPDのシュルツ前欧州議会議長の人気が高く、メルケル氏の求心力に陰りもみえる。

 今のところ新興右派AfDに勢いはないが、オランダとフランスの選挙結果次第では支持を広げる可能性も指摘されている。極右拡大の反動で、逆にメルケル首相の継続を望む声が高まるという見方も出るなど、情勢は流動的だ。

●レイシストで悪いか

 欧州の移民政策に詳しい宮島喬・お茶の水女子大学名誉教授は、こう説明する。

「欧州にとって、過去の大きな反省の一つはナチスです。ドイツはユダヤ人を大量虐殺し、フランスもユダヤ系移民を強制収容所に入れてドイツに送った。その反省から、いまでも欧州では、レイシスト(人種差別主義者)と言われることは、非常に不名誉なことです」

 こうした背景から、ドイツ、フランス、オランダ、ベルギーなどの国では長く、移民らが国境を越える移動について主要政党が寛容だったという。人権に対する意識も高く、メルケル首相が2015年9月、内戦によるシリア難民の大量受け入れを表明したことに、反対ばかりではなく賛成の声も多く上がったことは記憶に新しい。

「ところが、『ナチスを忘れるな』という世代から、そういうことをあまり知らない世代に交代していくと、自国の主人はわれわれであり、移民らの規制は当然だと言う人たちが出てくる。レイシストと言われて何が悪いのか、とね」(宮島氏)
 こうした空気を利用しながら支持を広げようとしているのが国民戦線などの極右政党であり、ポピュリストたちだ。

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