●メルケルよりもメイ

 イランでは、5月中旬に大統領選挙がある。保守穏健派の重鎮だったラフサンジャニ元大統領が1月に死去したことで、ロハニ大統領は大きな後ろ盾を失った。結果、保守強硬派が勢いを増すようなことがあれば、中東情勢の緊張が高まる事態は必至だ。

「こうした状況を横目でにらみながら、欧州がどう対応していくのか注視することが重要だ」

 と寺島氏は言う。

 そこで注目しているのが、ブレグジット後の英国のかじ取りを任されたメイ首相の存在だという。同国では「鉄の女」と呼ばれたサッチャー氏以来の女性首相で、剛腕だけれど派閥に頼らず、調整能力も高い。クールな存在感から「氷の女王」と揶揄される。

 トランプ大統領から就任後初の首脳会談の相手に選ばれたメイ首相は、トランプ氏による一定の国からの一時入国禁止令への反対が遅かったなどとして英国内で批判を浴びた。それでもブレグジットを巡って分裂した世論や議会への対応ぶりや、EU離脱に向けた欧州各国との関係構築といった難題には、

「動揺することなく、比較的スマートに対応している」

 と寺島氏は見ている。

「かつてレーガン大統領がサッチャー首相を非常にリスペクトし、影響を受けたのと同じように、メイ首相が、トランプ政権の命運にかかわる存在になるかもしれない。キーパーソンはメルケル首相だと盛んに言われるが、実はメイ首相がバランサーになる可能性が高い」

 対極にあるキーパーソンとして取りざたされるメルケル首相と、「アングロサクソン同盟」の立場で調整役を期待されるメイ首相。2人の女性が表裏の立場から、トランプ政権に影響力を行使しうる存在になるという寺島氏の見方は興味深い。その2人はいずれも、欧州主要国の首脳だ。

「だから欧州の動きを注視することが重要なんだ」

 と寺島氏は強調する。

 一連の選挙に加え、英国がEUの中でどのような存在となっていくのかも、今後の世界情勢を見極めるうえで重要になる。

(編集部/山本大輔、取材協力/倉田直子)

AERA 2017年3月20日号