ごった返すスタート地点
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スカイツリーをゆっくり見る余裕はない
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痛みに耐えて走る筆者
痛みに耐えて走る筆者

 ち、ち、乳首が痛い! 心の中でそう何度も小さく叫びながら、力なく前かがみになっていた。30キロメートルを過ぎた地点では、腰は完全にくの字に曲がり、まるでお腹が痛くてたまらない人のような格好でポツリポツリと走っていた。シャツの中をのぞくと、乳首がシャツに擦れて赤く……。

 2月26日、東京マラソン2017。今年で11回目を迎えた国内最大規模のマラソン大会に、週刊誌「アエラ」のデスク(43)は初めて参加した。フルマラソンの経験はゼロ。日頃の運動もゼロ。肉体への刺激と言えば、週末のサウナと水風呂くらい。情報収集と称して夜ごと酒ばかり飲んでは会社を愚痴る平均的な中年サラリーマンだ。

 練習をほとんどしないで、ほぼぶっつけ本番で、フルマラソンを完走できないものか。経験者からは甘いと言われそうだが、ちまたでマラソンの話を聞くたびに、そんなことをぼんやりと考えていた。そもそも、普通に仕事をしている人にとってフルマラソンを練習をする時間なんてない。いつかは、と思っている内に結局エントリーするのを諦めてしまうのがオチだ。「仕事が忙しくてさ」。齢40を超えると、そんな言い訳が増えてくる。完走すると人生観が変わるというじゃないか。

 昨秋、勢い余って東京マラソンの出場を決め、友人と酒を飲んでいるとき、ちょっとした言い合いになった。「制限時間7時間。歩いたって可能」(僕)「もうおっさんなんだよ、おまえ」(友人A)「いや、頭を使えばなんとかなる!」(僕)「甘い」(友人B)

 その夜、絶対に練習するものか、とあらためて決意。研究と準備だけを入念に進めることにした。

 まずは最小限の体力で制限時間ギリギリで完走できるペースを考えてみた。東京マラソンの制限時間は7時間。スタートラインを超えるまでのロスタイムやトイレ休憩などを考えると、実質約6時間くらいになる。自分の歩くスピードを計ると、1キ=約10分。早歩きより少し早いペースは1キロ=約8分。このペースだと約5時間40分で走り切れる。9カ所ある関門の足きりにもかからない。アイフォンには、イヤホンからペースを教えてくれるランニング用アプリをダウンロードした。

 体力の消耗、けがの心配はどうか。ここはできるだけお金で解決することに。足首を痛めないアシックスの最新ランニングシューズに、間接や筋肉をサポートしてくれる機能性のタイツ、そして一人で簡単に足首や膝をテーピングできる伸縮テープを購入した。

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