2016年の新語・流行語大賞は「神ってる」。“聖地巡礼”“パワースポット”がにぎわいを見せ、神様が身近にあふれる。3・11から6年、一人ひとりがそれぞれの形で宗教と向き合う時代。日本の宗教にいま、何が起きているのか。AERA 1月16日号では「宗教と日本人」を大特集。
今、宗教に救いを求める人々が増えつつある。今回は、そんな時代の変化に対応するため、さまざまな活動を通し、信仰者と必死に向き合おうとする宗教者の思いを紹介する。
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宗教を遠ざけてきた日本人の意識に、変化が見えてきた。
底冷えのする昨年12月中旬、伊勢神宮(三重県伊勢市)。午前7時40分ごろ、内宮(ないくう)の宇治橋前にたたずんでいると、大鳥居の奥に広がる神宮林から太陽が顔を出した。待ち構えていた80人近い人たちは歓声をあげ、盛んにカメラのシャッターを切った。
「きれいやなあ」
神戸から来た女性(40)は感嘆の声をあげた。女性が「お伊勢参り」をはじめたのは5年ほど前。仕事がきつくて、友達と一緒に来たのがきっかけ。なぜか心が安らいだ。大鳥居正面からの日の出は、一年で冬至と前後の数日しか見られない。今では毎年、この時期に伊勢に来るという。
「家族が元気で、仕事もあって家もある。今は、今年も無事に暮らせたことに感謝しに来ます」
1990年代前半、バブル経済が崩壊。有名大学を出て有名企業に入ればいい人生が送れる、という“成功の方程式”も崩れた。世紀末の時代、目に見えない何かとの「つながり」を宗教に求めた人たちもいたが、オウム真理教による地下鉄サリン事件(95年)が起きた。国家転覆を狙うほどの憎悪と信仰心の強さに、人びとは後ずさりした。21世紀に入ると、そうした「宗教アレルギー」は少しずつ薄れたかのように見えた。東日本大震災が起きたのはそんなころである。
2011年3月11日。未曽有の大地震と津波によって、東北地方の太平洋沿岸部に壊滅的な被害をもたらし、死者・行方不明者は合わせて約2万2千人を数えた。さらに原発事故で、多くの家族が故郷を追われ、分断された。
●日常をリセットしたい
統計数理研究所(東京都)の「日本人の国民性調査」によれば、「宗教を信じている」と回答した人は、13年は28%と、震災前の08年の調査より1ポイント増えただけ。しかし宗教の世界に向き合うとき、そのハードルは明らかに下がっているように見える。
伊勢神宮の内宮は、皇室の先祖神である天照大神をまつる、日本の精神性を象徴する場所だ。そもそも国家の安寧を祈る地で、ささやかな個人の祈りは届くのか。毎月のように「お伊勢参り」をするという大阪府に住む女性(43)は言う。
「砂利が敷き詰められた境内を歩くだけで、ネガティブな気分や、もやもやした気持ちが晴れてきます」
「非日常」の世界に入り、日常をリセットしたいという願望は以前より強くなっている。あやしげな宗教団体には近寄らない。“聖地”巡りを楽しみ、世の中でお墨付きのある神社仏閣を気軽に訪ねる。