故郷の山口県長門市にプーチン大統領を迎え、「新しいアプローチ」で北方領土問題の突破口を開く──こんな安倍首相の野望は幻に終わったようだ。
会談初日となった12月15日の舞台は、天皇、皇后両陛下も宿泊されたという由緒ある長門市の温泉旅館「大谷山荘」だ。
だが期待が盛り上がる暇もなく、プーチン大統領に同行したロシア側要人から、日本の期待に冷や水を浴びせるような身もふたもない発言が相次いだ。
ペスコフ大統領報道官は「(北方四島の)主権の問題はまったく持ち出されていない。ロシアに主権があることに疑問の余地はない」と断言した。
ペスコフ氏はこの時点で、両首脳が通訳だけを介した2人だけの会談で何を話し合ったか、すべてを知っていたわけではないだろう。だが彼は、プーチン氏の側近で、大統領の意図を誤解がないようにロシアメディアに発信するのが役割だ。「日本と領土問題は議論しない」というロシア側の姿勢がはっきりと伝わってくる発言だった。
●一時は高まった期待
「今度こそ北方領土問題が動き出すのでは」
日本でそんな期待が膨らんだのは、5月に安倍晋三首相がソチで行ったプーチン氏との首脳会談がきっかけだった。
会談後、安倍首相は、「停滞を打破する突破口を開く手応えを得られた。今までの発想にとらわれない新しいアプローチで交渉を進めていく」と、高揚した様子で語った。
しかし、11月19日に異変が明らかになる。アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開かれたペルーのリマ。プーチン氏との会談後、記者団の前に現れた安倍首相の表情はぼうぜんとしているように見えた。ときおり言葉を詰まらせながら「そう簡単な課題ではない」「一歩一歩進めていく」と、繰り返したのだった。
●首相の言葉「知らない」
この翌日、筆者は記者会見でプーチン氏に質問した。
「大統領はどんなアプローチを新しいと考えるのか。あなたにとって古いアプローチとは何か」