安全保障関連法が成立して1年。南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣する部隊に新たな任務「駆けつけ警護」が付与されたことで、自衛隊が武力行使に至る機会が間近に迫っている/11月7日、航空自衛隊那覇基地で(撮影/写真部・東川哲也)
安全保障関連法が成立して1年。南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣する部隊に新たな任務「駆けつけ警護」が付与されたことで、自衛隊が武力行使に至る機会が間近に迫っている/11月7日、航空自衛隊那覇基地で(撮影/写真部・東川哲也)
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安保法によって、自衛隊員が戦争やテロなどに巻き込まれる危険性は増したといわれている。大型輸送ヘリコプターCH-47の機内にはおふだがまつられていた/11月7日、航空自衛隊那覇基地で(撮影/写真部・東川哲也)
安保法によって、自衛隊員が戦争やテロなどに巻き込まれる危険性は増したといわれている。大型輸送ヘリコプターCH-47の機内にはおふだがまつられていた/11月7日、航空自衛隊那覇基地で(撮影/写真部・東川哲也)
元内閣官房副長官補 柳澤協二さん/1946年生まれ。東京大学法学部卒業後、防衛庁(現防衛省)に入庁。2004~09年、内閣官房副長官補(安全保障・危機管理)(撮影/編集部・野村昌二)
元内閣官房副長官補 柳澤協二さん/1946年生まれ。東京大学法学部卒業後、防衛庁(現防衛省)に入庁。2004~09年、内閣官房副長官補(安全保障・危機管理)(撮影/編集部・野村昌二)

 中国、トランプ、北朝鮮、日本を取り巻く環境がきな臭くなっている。専守防衛に徹し、海外に展開できる装備は持たない自衛隊。安保法とトランプ大統領の誕生で、どう変わろうとしているのか。AERA 12月12日号では「自衛隊 コストと実力」を大特集。最新兵器から出世レース、ミリメシまでいまの自衛隊に密着している。

 米次期大統領が日米安保不要論を叫び、「積極的な武器使用」を認められた自衛隊が海外で活動する時代が来た。日本を守るのは誰なのか。元内閣官房副長官補・柳澤協二氏が、安保法制の矛盾について語った。

*  *  *

 安保法制の本質は、自衛隊の武器使用拡大と、アメリカとの軍事行動の一体化です。しかしそこには矛盾があります。

 安保法制で自衛隊は、駆けつけ警護などの任務のために武器を使用することが可能になりました。稲田朋美防衛相はNHKのテレビ番組で、「法的な手当てはできています。正当防衛なら罪に問われない」と言っていました。しかし、個人の武器使用ですから、相手を殺害した場合は殺人の構成要件に該当します。「当然無罪」とはならないのです。

 アメリカの軍事行動と一体化することによって、抑止力は高まりますが、アメリカを攻撃する国にとっては、日本も攻撃対象になる。一体化は両刃の剣なんです。

 私は、「日本を守る集団的自衛権」というのは、軍事的には全く意味がないと思っています。

 憲法解釈の見直しの有識者懇談会は、第1次安倍政権で始まりました。その時想定された「集団的自衛権マター」は二つ。一つは、並走しているアメリカの船を守ること。もう一つは、アメリカに向かうミサイルを撃ち落とすことでした。自衛隊法95条の「武器等防護」を適用すれば、並走する米艦を守ることはできる。アメリカに向かうミサイルの迎撃については、そもそも、北極の上を飛ぶミサイルは、日本は物理的に撃ち落とせない。そういう認識を安倍首相に申し上げました。安倍首相は、「有識者懇で議論してもらいたい」というようなことを仰っていたと思います。

 安倍首相は集団的自衛権を行使して戦争がしたいわけではなく、集団的自衛権の行使を容認すること自体が目的になっていると思うんです。背景にあるのは、安倍首相のDNAに生きている、祖父・岸信介元首相のころからの「アメリカと対等になりたい」という欲求でしょう。

 次期大統領に決まったドナルド・トランプ氏の「在日米軍の駐留経費をもっと出せ」という要求に関しては、議論して落としどころを見つけなければなりません。

 一方でトランプ氏は、「アメリカは世界の警察官ではいられない」とも言っています。

 言葉通りであれば、アメリカが始めたベトナム戦争やイラク戦争のような戦争がなくなり、世界は平和になる可能性もあるわけですよね。しかしそうなると、ロシアや中国が好き勝手なことをし始めるでしょう。その時に日本は、「協力するから戦争をせよ」とアメリカを促すのか、ロシアや中国が大きい顔をするのを多少なりとも我慢するのか。

 トランプ氏の出現が投げかけているのは、そういう問題です。

 日本人は「覚悟」ができていないから、何かあると慌てふためくことになる。自衛隊の南スーダンへの派遣とトランプ氏の出現。この二つが重なったいまが、「日本は一体何を守りたいのか」を、国民自身が考えなければならないタイミングなのだと思います。

(構成/編集部・野村昌二)

AERA 2016年12月12日号