「最初から来たくて来る子はいない。誰から生まれようが、誰に育てられようが、自ら人生を切りひらく力を得てほしい」
●体験から生活を学ぶ
最初に迎えた里子は16歳の女の子。母親を亡くし、父親とは不仲で、養護施設で脱走を繰り返した末、廣瀬家にやってきた。「太めだなと思ってたら妊娠してた」(タカ子さん)。女の子は拠点病院で出産。赤ちゃんは廣瀬さん夫婦に育てられ、生後7カ月で別の夫婦の養子になった。養親に沐浴や食事の仕方を教えたのはタカ子さんだ。
「あの子がわが家を去ったときは寂しかったな」(正さん)
保護の緊急性が高かったり、施設の集団養育になじまなかったりする難しいケースも積極的に引き受けてきた。いま世話をする3歳の女の子は、一緒に風呂に入るうち、見よう見まねで使ったオモチャを片付けるようになった。子どもは日々の体験から「生活」を学んでいく。
タカ子さんは児童相談所と生みの親の面談にも同席し、
「子どもたちは家に帰る日を待ってるよ。がんばって」
と親を励ます。ありのままを受け止められ親もまた育っていくのだと、タカ子さんは言う。
●妊娠期からの支援
貧困の世代間連鎖を防ぐには、子どもだけではなく、生みの親への支援も大切だ。前出の池上さんは言う。
「子どもの貧困の背景には、親の精神疾患や虐待など多重の逆境があることが多い。保健、福祉、教育の施策がうまく統合される必要があります」
子育て中の家庭を地域住民が無償で訪問支援する「ホームスタート」は今年度から地域を限定し、妊娠訪問モデル事業を始める。山田幸恵事務局長は言う。
「子育てに困難を抱える方の多くは妊娠期から一人で悩みを抱えがち。一人ひとりの状況に応じて柔軟に動ける『近所のオバチャン』が必要なんです」
(朝日新聞記者・後藤絵里)
※AERA 2016年7月4日号