米国のノーベル賞経済学者ヘックマンは、60年代に米国で黒人の低所得世帯の幼児を対象に行った継続的教育支援と成果を調べた研究に着目した。就学前の30週間、毎朝教室に通い、週1回の家庭訪問を受けた子のグループは、根気や意欲などの非認知能力が向上し、支援を受けなかったグループより40歳時点で学歴が高く、収入が多く、生活保護受給率や逮捕者率が低かったという。幼少期の介入が生涯にわたる不平等解消に役立つとヘックマンは主張する。
●大切なのは「継続性」
だが、人生早期に支援を受けられる子ばかりではない。日本では、生みの親と暮らせず保護が必要な子のうち、養子縁組で家庭を得る子は全体の1%程度。多くは施設で暮らしながら親元に帰ることを目指すが、施設生活の長期化も問題視されている。「親が育てられない子どもに家庭を!里親連絡会」事務局長の竹中勝美さんが1977~2012年度の国の統計を調べたところ、1年未満の短期入所が減る一方、10年以上施設にいる子の割合は5%が14%に、乳児院から直接施設に入る子の割合は14%から21%に増えていたという。
18歳で施設を出ても、多くは頼る家もなく、経済的支えも足りない。NPO「ブリッジフォースマイル」が15年に全国170施設の職員に行った調査では、昨春高校を卒業して退所した子の7割が就職し、3カ月後の時点で13%が離職や転職をしていた。進学者も退所1年後の時点で9%が中退していた。
社会的養護下の子どもの心理に詳しい東北福祉大学特任准教授の池上和子さんは、子どもの成育に大切なのは「継続性」だと指摘する。
「生後数年の間に親の離婚や失踪で転居を繰り返し、施設に出たり入ったりの生活を送ると、養育の連続性が失われ、将来への希望を描けなくなる。やがて学ぶことや他者と関係を築くことへの関心まで失ってしまう」
養子縁組もできず、生まれた家にも戻れない。困難を抱える子どもたちが、それでも安定した家庭で育つことができる方法が、一定期間、親に代わって子どもを育てる里親制度だ。
千葉県君津市の住宅街の一角に廣瀬正さん(72)、タカ子さん(69)夫婦が切り盛りする「ひろせホーム」がある。2人は88年に県の里親に登録し、09年に一度に5、6人を世話できるファミリーホームに切り替えた。これまで約60人を預かった。短い子で1日、長い子で14年。寝食を共にし、学校に送り出し、悪さをすれば叱り、育ちを見守ってきた。タカ子さんは言う。