IT企業エンジニアの七島偉之さん(33)は5月から、月に10日間だけ妻子が暮らす山口に帰るという【半移住婚】をしている。東京にいる20日間はみっちり仕事に集中。毎日午後6時からはスカイプを山口の自宅とつなぎっぱなしにして、夕食後の家族のだんらんに遠隔参加する。残りは山口で、家族と過ごしながら在宅勤務する。

●一時的には半移住婚

 今の会社に転職したばかりの1年前、通勤に片道1時間半近くかかり、自宅には2日に一度だけ帰るようになった。家族の時間をもてないのはつらいが、仕事も踏ん張り時。どうせ2日に一度なら、もっと大きく分割した方が楽なのでは、と考えた。共働きの妻(33)に家事と育児の負担が偏るのも心苦しかった。

 第2子の出産で妻が山口に里帰りしたのを機に、夫は仕事にフルコミットし、妻は実家の助けを借りて子育てする形が、一時的には夫婦ともに楽になれるのでは、と話し合った。会社が柔軟な働き方に寛容なおかげで実現できた。

「仕事にも家族の時間にも集中できるようになった。家族と関わる時間の総量は変わっていません」(偉之さん)

 妻もこう話す。

「週末に疲れ切って寝ていたときと比べたら余裕ができた。この形がベストではないけど、一時的には選んでよかった」

 偉之さんと妻はもともと事実婚だったが、12年に長男が生まれる直前に子どもへの不利益を避けるために婚姻を届け出た。戸籍上の姓は妻の姓だ。男性が改姓するケースは珍しいからこそ、手続きや説明の手間を実感してきた。

 偉之さん夫妻も、冒頭のヨウコさんとタカシさんも、「夫婦はこうあるべきだ」と決めつけられることに違和感がある。同居すべきだ。籍を入れるべきだ。カップルごとに多様な形があるのに、それを狭い枠に押し込めようとするから「結婚」は息苦しいものになる。

●2人愛すのダメですか

 出版社に勤めるレンさん(31)は妻のアスミさん(31)と結婚して2年。ケイちゃん(22)という恋人もいる。夫婦の自宅にケイちゃんが遊びに来て3人で囲む食卓は、笑いが絶えない。

 3人とも、恋愛を1対1の関係だとはとらえない「ポリアモリー」の関係を築いている。同時に複数の人と、合意のもとで性愛関係を築くという考え方だ。

 レンさんは大学生のとき、恋人ができた途端、他の女性と遊べなくなることを苦痛に感じた。

「なぜ好きな人は1人でなければならないんだろう」

 縛り合わない関係をともに望んだのが、アスミさんだった。

「パートナーだからといって、相手の行動を制限する権利なんてないのでは」

 実際、アスミさんが「浮気」をしたときも、レンさんは嫉妬や悔しさを感じなかった。

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