今や当たり前のように売られている米国産牛だが、この輸入が自由化された影響は大きかった。身近な食品、「こてっちゃん」からも、それは読み解くことができる。
子どもの頃、夕飯のおかずにあの「こてっちゃん」が登場するとむやみにテンションが上がった。俳優でありコメディアンの財津一郎のテレビCMで全国区となった同商品の名前は、韓国語で牛の大腸を指す「テッチャン」に「コ」をつけたもので、家庭ではフライパンで炒めて食べるのが一般的だった。食肉業界でホルモンは、牛の血液や骨、皮などと共に、生体から枝肉を生産した後に残る「畜産副産物」と呼ばれ、普段、私たちが食べる牛肉(食肉業界では精肉、正肉と呼ばれる)とは明確に区別されている。
しかし、つい最近まで、この原材料であるホルモンが、はるばる太平洋を越えて輸入された「メイド・イン・USA」であるという事実を知らなかった。
「米国は世界最大の牛肉生産国、消費国でありながら、牛の内臓は廃棄されていました。そこで、安価な米国産の牛ホルモンを輸入して、日本人好みの甘辛い味つけで提供したのが始まりです」(「こてっちゃん」を製造するエスフーズ開発部)
「こてっちゃん」が発売された1980年代初頭。日本政府は畜産農家を守るため輸入牛肉の総量を規制する割当制度を設けていた。しかし、これを貿易障壁として撤廃を求める米国の圧力によって、91年4月、日本政府は牛肉の輸入自由化を開始。割当制度は撤廃され、「70%」の関税を課した。その後2000年までに関税は現在の「38.5%」に引き下げられてきた。こうして米国産牛肉が日本社会に雪崩を打つように流入し、日本人の食生活は大転換期を迎えることになる。