安彦良和やすひこ・よしかず/北海道出身。「機動戦士ガンダム」でキャラクターデザインと作画監督を担当。1989年から漫画を手がける。2月28日から上映の「機動戦士ガンダム THE ORIGIN Ⅰ青い瞳のキャスバル」では総監督(撮影/編集部・野村昌二)
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安彦良和
やすひこ・よしかず/北海道出身。「機動戦士ガンダム」でキャラクターデザインと作画監督を担当。1989年から漫画を手がける。2月28日から上映の「機動戦士ガンダム THE ORIGIN Ⅰ青い瞳のキャスバル」では総監督(撮影/編集部・野村昌二)
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 アニメ「機動戦士ガンダム」の初放映から36年。いまも愛され続けるガンダムは、単に格好いいだけじゃない。2月28日から上映の「機動戦士ガンダム THE ORIGIN I青い瞳のキャスバル」で総監督を務める安彦良和氏は、ガンダムについてこう語る。

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 ガンダムのテーマをひと言で言うと「ディスコミュニケーション」。つまり「相互不理解」にあると思います。「連邦軍とジオン軍」や「母と子」など、ガンダムには互いが分かり合えないという逸話が随所に出てきます。

 その中でシャア・アズナブルという人物は、分かり合うことを拒絶した男です。そして、彼にとって分かり合うことへの拒絶が、ジオン軍を支配するザビ家への「復讐」でした。ファースト(シリーズ第1作)は徹頭徹尾、「シャアの復讐の物語」だったのです。一方、アムロ・レイは、分かり合うことを求めた人物です。友だちがいなくて、ちょっと自閉的。でも、最後には仲間たちのところへ帰っていきます。

 ガンダムから何かを学んだか?私がガンダムを最初に描いたのは、30歳を過ぎたあたり。もし何かを「学んだ」と答えれば、それはそれまでの自分が何も学んでいなかった、と言うに等しいことになる。だから、「ガンダムから何か教わった」という言い方は意地でもしたくありません。そもそもガンダムの物語で、こうしろとか、物事はこうあるべきだとか、何かを決めつけるようなメッセージは発信していないと思います。

 ただ、さまざまなことを「再認識」させてくれました。人は互いに分かり合うのが難しいということ。親と子、会社の上司と部下、国と国、民族、宗教…。悲しいことに分かり合えません。でも、分かり合う努力が大事だということです。

 ファーストから36年経ちました。一度はアニメを捨てて漫画家になった私には、ガンダムは消したい過去だったこともあります。だけどいま、ガンダムは大切な宝物です。

AERA 2015年3月2日号より抜粋