料理研究家の辰巳芳子さん。「いのちのスープ」講座では、素材選びの大切さや作り方だけでなく、病気の人に提供するための心得も参加者に伝えていた(撮影/山本倫子)
料理研究家の辰巳芳子さん。「いのちのスープ」講座では、素材選びの大切さや作り方だけでなく、病気の人に提供するための心得も参加者に伝えていた(撮影/山本倫子)
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辰巳芳子さんのいのちのスープ。新玉ねぎを鶏ブイヨンで煮込み大麦を加えた「新たまねぎのぽったら煮」(撮影/山本倫子)
辰巳芳子さんのいのちのスープ。新玉ねぎを鶏ブイヨンで煮込み大麦を加えた「新たまねぎのぽったら煮」(撮影/山本倫子)
トマトに香味野菜(玉ねぎ、にんじん、セロリ)を加え、しずかに加熱した「トマトジュース」(撮影/山本倫子)
トマトに香味野菜(玉ねぎ、にんじん、セロリ)を加え、しずかに加熱した「トマトジュース」(撮影/山本倫子)

 病院食といえば「早い、冷たい、まずい」だった。調理スタッフの勤務時間に合わせて早い時間に調理し、冷めた状態で提供されていたからだ。しかし最近ではそうした状況も確実に変化。料理研究家の協力で人気スープを提供する病院もある。

 神奈川県鎌倉市にある、社会福祉法人聖テレジア会鎌倉リハビリテーション聖テレジア病院では、昨年9月から、月に1回1病棟ずつ管理栄養士が手作りした「いのちのスープ」の提供を始めた。いのちのスープとは、料理研究家の辰巳芳子さんが父親の介護経験から、病院食に疑問を感じて、考案したスープだ。

 嚥下(えんげ)障害がある人や食欲のない人に提供してほしいという思いで「スープの会」を主宰し、40年来作り方を伝えている。

 辰巳さんの父親が入院していたのが聖テレジア病院と知った同院地域連携室の小嶋美恵さんは、「病棟でいのちのスープを出せないか」と管理栄養士の島田直子さんと小木敦菜さんに声をかけた。

「食欲のない人にどうしたら食べてもらえるか」が栄養管理をするうえでの悩みだったが、病院で提供するのはとても無理だと思った。その後病院側の許可も得て、辰巳さんに連絡を取り、半年間スープの会に通い、自宅でも試作を重ねた。いのちのスープは季節の野菜を使い、野菜のうまみを引き出すように弱火でじっくり火を通す。均等に火が通るように材料の切り方も決まっている。だしにもこだわる。スープ提供の前には、辰巳さんのお弟子さんに味をみてもらい、OKをもらってから提供する。

 いままでにじゃがいもやにんじん、小かぶのポタージュなどを提供した。患者の家族にも関心をもってほしいと、レシピも添える。材料費は全て1杯100円以下。費用はすべて病院側が負担する。

「ふだん食欲がなくて食べられない患者さんほど、いのちのスープを喜んでくれます。嚥下障害の人も、ポタージュなら食べられます」と島田さん。患者からの要望は多いが、調理に3時間半かかるので、たびたび提供するのはむずかしい。

AERA 2013年12月16日号より抜粋