林真理子が著した『野心のすすめ』が売れに売れている。だが女性が組織の中で「野心」を示し、実現させるのは容易ではない。
大手メーカーに勤める女性(35)は、入社1年目、新規事業の社内公募に応募した。勤務時間外に財務やマーケティングのビジネス書を読み込み、企画書を作った。社内の役員会の審査も通過し、異例の抜擢で本社の花形部署に配属された。
その部署の部長は、それが気に入らなかったのだろう。何を提案しても文句を言われ、新規事業の準備のために、通常業務を手際よく切り上げると、資料作りなど手間のかかる作業を過剰に振られた。この部長は陰で部下たちに、「彼女のプロジェクトをつぶすことが使命だ」とまで言っていたことが、後にわかった。新規事業を始めた後、評価はCに。社内の軋轢に疲れ果てて、今は通常業務を淡々とこなすだけ。すると評価はAに上がった。彼女は嘆く。
「若い女性が男社会の常識を破って目立つことに反発があった。女性が会社で野心を燃やしてもいいことはないと思う」
先進国の中でも際立って女性のリーダー層が薄い日本では、女性が野心や夢を実現させるには、男性上司の援軍が欠かせないのが現実だ。どうすれば抜擢され、応援してもらえるのか。
今年6月に東京海上日動の執行役員に就任した吉田正子(52)は抜擢の連続だった。一般職で入社し事務に従事していたが、営業や人事などにも配属された。その後はグループリーダーや支社長を務め、2年前には部長職となった。
経験が足りない分野は素直に認め、上司や同僚、部下などに聞く姿勢を徹底した。社内外での勉強会に参加し知識をつけ、学んだことはチームメンバーにも還元。この姿勢は働き始めてから一貫している。
吉田自身は「地位」を求めてきたわけではない、という。ただ、仕事を工夫して成果を出すことには、常に「野心的」だった。結果、会社が役職を与えてくれた。時には荷が重いと思ったが、まずはトライしてきた。
いま執行役員として臨む経営層の会議などは男性がほとんどだが、その中で発言する時は、「様々な立場を経験してきた自分だからこそできることがある」と使命を感じる。(文中敬称略)
※AERA 2013年8月12-19日号