東日本大震災の後、何かと話題となっている建物の耐震性。しかし大地震が起きたとき、震災対応の司令塔となる自治体の官庁が危ないという。本誌は、主要77自治体に、大地震や津波などで庁舎に被害が出るかどうかをたずねた。すると庁舎が大地震で倒壊したり崩壊したりする危険性のある自治体が、21自治体にものぼることがわかった。

 実際に、過去の大地震では庁舎が大きな被害に遭っている。

 1995年1月の阪神・淡路大震災では、「震度7」だった神戸市中央区にある神戸市役所2号館で、中間階の崩れる「層崩壊」と呼ばれる現象が起きた。水道局が入っていた6階部分が押しつぶされ、市内のほぼ全域の水道の配管を示す地図が、がれきの下に埋まった。この影響などで、神戸市の水道は復旧するまでに3カ月もかかった。

 発生が早朝で、多くの人が自宅にいて被害にあった阪神・淡路大震災と違い、発生が午後2時46分だった東日本大震災では、多くの自治体職員が犠牲になった。

 大津波が押し寄せた岩手県の陸前高田市役所は、296人の市の正職員のうち68人が死亡・行方不明となり、庁舎も使用不能になった。指揮命令系統は機能せず、震災直後は誰からも何の指示も出ない状況が続いたという。

 復興段階になっても、戸籍を含む公的な書類は大半が流されてしまった上、あらゆるデータを保存していたサーバーも水没。高台の仮庁舎への移転後も、しばらくは出生届の受理や保険証の発行ができない状態だった。

 こうした状況を目の当たりにしたにもかかわらず、地震や津波に脆弱(ぜいじゃく)だとわかっている庁舎を十分な対策もせず放置するのは、2度の「大震災」から何も学んでいないに等しい。

 自治体庁舎の防災を担当する総務省消防庁防災課に聞いた。

「自治体庁舎の耐震性については、各自治体ごとの耐震基準に沿って対策できるよう、財政措置は行っているし、今後も行う予定です」

 だが、文部科学省・防災科学技術委員会委員で危機管理アドバイザーの国崎信江さんは、財政的に豊かな自治体の中にも庁舎の耐震化が進んでいない現状があると指摘する。

「東日本大震災で住民の防災機運が高まっています。今、庁舎の耐震化を行わずに、いつやるのでしょうか」

AERA 2012年11月12日号