ある程度英語を学んだ大人でも、留学は骨が折れるもの。慣れない言葉と寮生活から、子どもたちは何を学んだのか。京都・立命館小の9人のビフォーアフターを現地で取材した。
留学先である豪州東部の私立小学校「トゥーンバ・プレップ・スクール」で、
“I donʼt like to play with you.”(君とは遊びたくない)
と言われて面食らったのは、5年生の米谷優希くん。
「嫌われているのかな」と思ったけど、あるとき、
“No way! ”(冗談でしょ)と切り返すと、相手の男の子が遊んでくれるようになった。
「ママ、ジャップって何?」
1カ月が過ぎたころ、6年生の桂理子さんは日本にいる母親に電話で尋ねた。
意味は知らなくとも、蔑称のニュアンスを感じとっていた。オーストラリア人の子に「どうしてそう言うの?」と聞くと、「パンプキンの一種だよ」とはぐらかされる。調べると、確かに「ジャップ」と略されるかぼちゃの品種もある。
思い立って、校長のホーキンさんに直接相談した。
「何も言い返さないと、相手はやめず、言われるばかりになってしまう。何か言ってみなさい。それでも向こうがやめなかったら、私が直接何か言うから」
次に「ジャップ」を耳にしたとき、こう言い返してやった。
「私たちのことを言っているのはわかっているよ」
相手は黙り、同じ言葉を二度と使わなくなったという。
終盤、女子寮では「馬肉論争」も勃発した。
「馬肉を食べるなんて、かわいそう!」
日本の食べ物について話したときだった。寮には牧場の子弟も多く、かわいがっている馬の写真を部屋に飾っている。電子辞書を眺めていた6年生の田中舞子(まこ)さんは、顔を上げて言った。
「あなたたちもカンガルーの肉を食べるでしょ。どう違うの?」
議論はそこで終わった。
「オーストラリアの生徒は陰口ではなく面と向かって言うので、こちらも反撃できた」
5年生の無相(むそう)遊月(ゆづき)さんはそう話す。留学10日目、英語が伝わらない葛藤で、泣きながら母親に電話で「がんばる」と約束した。いまは笑いながらこう話す。
「日本に帰ってきたら、刺激がなくて、つまらないんです」
※AERA 2012年11月5日号