日本には、今もほうぼうに様々な農村歌舞伎が残っているが、こんな厳冬期に外でやるものはほとんどない。どうしてこんな時期になったのか。農閑期の楽しみであり、神社の祭礼かねて、決められたものなのだろうが。
次の幕が開いた。演目が舞台の隅に書かれているが、降る雪が邪魔をして見えない。
いっそう激しく降り出した雪は舞台を斜めに走る。その雪すだれの向こうで演じられているもの……まるで夢の世界である。「雪芝居」と呼ばれるのもうなずける。雪や風の自然と一体になって見る歌舞伎は風流で、寒さも忘れさせてくれる。
屋台も出て、人々が多くなってきたところで小休止。神社の裏にまわって、いろりにあたり、神主さんに挨拶をする。酒瓶を手に「まあまあ」とすすめる神主の鼻は、酒呑童子のようにすでにまっ赤である。
※週刊朝日 2020年2月7日号