85歳を迎え、新作『老人の美学』(新潮新書)を刊行した文学界の巨匠・筒井康隆さん。情報化社会の本質と大衆の愚かしさを鋭く穿ち、フィクションへと昇華させ続けてきました。作家の林真理子さんと行った対談では、パリッと着こなしたスーツ姿で、テンポ良く関西弁で語る筒井さんに、老いることとは、書き続けることとは……など、マリコさんも聞きたいことが山ほどあって──。
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林:先生の新作『老人の美学』(新潮新書)、話題になって、とても売れてるみたいですね。
筒井:売れてるといったって、あなたには及びません(笑)。
林:とんでもないです。
筒井:調べてもらったら、『老人の美学』というタイトルの本、今までなかったんだって。「老人」と「美学」が結びつかないんだな。
林:私なんかは「老人」と先生とが結びつかないですよ。多くの人もそうだと思います。
筒井:僕もう85歳ですよ。老人を主人公にした本を書き始めたのは、もう20年ぐらい前なんです。『敵』というタイトルの本で、老人って見てるといろいろおもしろいでしょう。老人を主人公にしたらおもしろいだろうなと思って、60歳をちょっと過ぎたぐらいに書いたんです。本当に老人になったら老人のことを書けないと思って。
林:80代になってみると、そのときとだいぶ違ってましたか。
筒井:ぜんぜん違いますね。悪いところも出てくるしね。
林:ご自分で老いを感じたりなさいます?
筒井:それはありますよ。睡眠薬の飲みすぎというか、睡眠薬依存……。
林:えっ、そうなんですか? 睡眠導入剤ですよね。
筒井:睡眠導入剤もありますし、ほんとに深く眠れる睡眠薬もあって、両方飲み分けたりしてるんです。
林:私の周り、50代60代で睡眠薬を飲んでる人、多いですよ。「夜眠れない」って。
筒井:昼間ウトウトするくせに、夜になったら眠れない。不思議だね。
林:このごろ、70代のカッコいい男の人がおむつしたりしてるんで、悲しくなっちゃいます。怒りっぽくなったり。