林:いま上演中のお芝居(「グッドバイ」全国8都市で順次上演)でも、出演と同時に演出もなさってるんですね。脚本は劇作家・演出家のKERA(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)さんですけど、今回KERAさんはなんで脚本だけなんですか。

生瀬:これは「KERA CROSS」といって、KERAさんの作品をいろんな演出家が演出するという企画の第2弾なんです。それで今回は僕にこの作品を預けていただいたんです。5年前のKERAさん自身が演出された初演版のとき僕は出てなくて、見に行ったらとても素敵な作品だったので、「これをやらせてほしい」ということで。

林:私、初演を見てないんです。

生瀬:太宰治の未完の遺作をベースにしてるんですけど、KERAさんの作品にしては、めずらしくハッピーエンドのラブコメディーなんです。

林:そうなんですか。俳優さんが演出をやるってどうなんですか。

生瀬:強みとしては、俳優の気持ちがわかるってことですね。俳優はこういうことを言われるとイヤだし、こういうことを言われるとうれしいというのがわかっているので、それの使い分けができる。

林:なるほど。

生瀬:僕は稽古場の雰囲気をつくるのが演出家の仕事だと思ってるんです。俳優のポテンシャルを引き出すためには乗せないといけない。「3歩歩いて右を見るんだよ!」って怒鳴るよりも、「好きなようにちょっとやってみて……。あ、おもしろい。じゃあもっと」というやり方が好きで、やっぱり役者を乗せないと。

林:自分はこんなこと簡単にできるのに、なんでできないんだって思ったりは?

生瀬:やってみせちゃうと、それは僕にしかできないんですよ。それに近づけようとする努力は無駄だと思うので、なるべく言葉で伝えて、その人から出るものを利用したいと思います。やってみせるのは簡単なんですけど、それ以上のものにならないし、それをなぞろうとすると、その人の良さが出ないんで。

林:ああそうか。

生瀬:僕、蜷川幸雄作品にもいっぱい出てますけど、蜷川さんの現場って、稽古初日にセリフが全部入ってなきゃいけないんです。蜷川さんが稽古場に来る2時間ぐらい前からみんなアップを始めて、自分たちでいろいろ考えて準備してるんです。そうすると蜷川さんが来て、「今日はこのシーンをやるよ。はい、スタート」って言うと、みんな自主練してるからできるわけですよ。

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