TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。「男はつらいよ」、そして渥美清について。
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中学に上がるまで、正月は吉祥寺に住む祖母と映画を観ると決まっていた。映画会社の株主だった祖母にはいつも劇場招待券が送られてきた。映画館の名前はムサシノといい、同級生の親が経営していた。後にバウスシアターと名前を変え、今はもうない。祖母もこの世を去った。
そういうこともあり、僕は新しい年になるとまず映画館に足を運ぶ。
今年は毎週土曜にDJを務めて頂いている桑田佳祐さん(「桑田佳祐のやさしい夜遊び」23時~)が主題歌を歌い、出演もされているというので「男はつらいよ お帰り 寅さん」を。
高度成長と学生運動の真っただ中、1969年の第1作から50年。シリーズ50作目だという。初回で生まれた、渥美清さん演じる寅次郎の妹さくら(倍賞千恵子)と博(前田吟)の息子・満男(吉岡秀隆)も50歳になった。僕は「男はつらいよ」をこれまで観たことがなかった(というと、ほぼ全員に、マジか? と怪訝な顔をされるが)。
高校の3年間ずっと担任だったS先生は、ポン太というあだ名だった。ポン太先生は僕の父の大学の後輩で(東京教育大学。「ポン太」は先輩である父が命名した)、生まれも育ちも下町門前仲町の熱血漢。ダメな生徒ほど可愛がった。「ひ」と「し」の区別ができない先生は、何かにつけて「男はつらいよ」の主題歌を歌い、頼みもしないのにこの映画の解説をするものだから、それだけでお腹いっぱいになってしまったのだ。