カトリーヌあやこ/漫画家&TVウォッチャー。「週刊ザテレビジョン」でイラストコラム「すちゃらかTV!」を連載中。著書にフィギュアスケートルポ漫画「フィギュアおばかさん」(新書館)など
イラスト/カトリーヌあやこ
漫画家&TVウォッチャーのカトリーヌあやこ氏が、「おしん」(NHK BSプレミアム 月~土曜7:15~)をウォッチした。
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すごいぞ「おしん」。今、毎朝BSで再放送してるわけだが。その直後に流れる朝ドラの「なつぞら」や「スカーレット」がペラッペラに見えるくらい、展開の密度がとんでもない。
最近の朝ドラちゅーのは、ヒロインがアニメーターとか陶芸家になる夢を抱き、それを目指し前向きに頑張るってのが定番だ。
それぞれ凝った作りのタイトルバックにも、ほのぼの感がにじみ出る。そこいくと「おしん」。ドーン、タイトルバックがもう質実剛健な筆文字オンリー。
そしてヒロインは夢なんか抱くヒマもねぇ。まず材木問屋に奉公→米問屋に奉公→この辺で小林綾子から田中裕子に変身し、ここから怒涛のジョブチェンジ。
髪結い→羅紗問屋→子供服店→佐賀で開墾→どんどん焼きの露天商→飯屋→魚の行商→鮮魚店→軍指定の納入業者→ここで乙羽信子に変身→再び魚の行商→食料品店→スーパーマーケット→チェーン店化。
もうろくろとか回してる場合じゃない。転職するごとに降りかかる理不尽に次ぐ理不尽。関東大震災だ、戦争だ、姑だ。登場人物もバタバタと死んでいく。
「厄介もんのくせして、ろくに役にも立たん嫁が」「この穀つぶし、あんた田倉ん嫁の資格もなかとよ!」
この火力抜群な佐賀のがばい姑・お清(高森和子)のいびり攻撃こそ、壽賀子の真骨頂。おしんの「しん」は辛抱の「しん」とか言われてるけど、案外おしんはそんなキャラじゃない。
彼女はひたすらめげないのだ。我慢するだけではなく、何度でも何度でも立ち上がる。経験を積み、職を変え、工夫をこらし、新たな武器を手に魔王・壽賀子に立ち向かう。ちなみに今、乙羽信子の姿をしたおしんは、がんがんオート三輪乗り回してるから。
改めてこの伝説の朝ドラを見ると、その後の朝ドラシリーズの決まり手みたいなものが、すでにちりばめられていることに気づく。
例えば友人であるお嬢様は没落し、身をやつす。見守りポジション(結婚相手ではない)のイケメンが何かと助けてくれる。戦争反対、いびりは朝ドラの華、子供はいつも反抗期。
どうか全朝ドラ脚本家に見てほしい。「おしん」は朝ドラ最強の攻略本だ。
※週刊朝日 2020年1月17日号