「まず、精度についてですが、元になる研究はがん専門病院のがん患者さんと、人間ドックで異常がなかった人の血液中のマイクロRNAを比べたもの。この方法は『症例対照デザイン』といって精度が高めに出やすいのです」
そのため、この試験法のデータはガイドラインには採用されないという。
「望ましいのは、健康な人の血液を数万人分採取して、そこからがんになった人と、ならない人を比較する方法ですが、これには多くの人の協力と膨大な時間がかかります」(中山氏)
さらに、13種類のがんのなかには、膵臓がんのように現在の診断技術では早期発見が難しいがんも含まれている。
「“検査でがんの疑いがかけられたけれど、画像では見えない”ケースについて、どう扱うのか。そこまで検討して初めて、検診の意味が出てきます」(同)
ちなみに、同センターは今回の実証実験には関わっておらず、独自にマイクロRNAを用いた研究を進める予定だ。
現在、国が推奨している“効果のある”がん検診は、胃がんの胃X線検査、胃内視鏡検査、大腸がんの便潜血検査(検便)、肺がんの胸部X線検査、乳がんのマンモグラフィー(乳房X線検査)、子宮頸(けい)がんの細胞診だ。検診を受けることで早期発見や早期治療がなされ、がんで亡くなる人を減らせるということがわかっている。
そもそも、検診の“効果”とは、発見率を上げることではない。大阪市立大学大学院医学研究科の福島若葉教授(公衆衛生学)は、「発見率を上げても、がん死を減らせなければ、科学的な意味がない」と話す。
「マイクロRNAで陽性となったけれど、精密検査でもがんが見つからず、1年後の再検査でがんが見つかった場合、本当にマイクロRNAの検査を受ける意味があったのか、受診者をただ不安にさせただけではないのか、となります。陽性となった後の流れもセットで考えるべきでしょう」
19年3月、都内で開かれたメディアセミナーで落谷氏は、「過剰診断や、がんでない人をがんと診断してしまうことは、非常に大きな問題。(基礎研究で出した結果の)答え合わせが必要」と述べた。実用化へ向けて、まだ課題は多いが、この技術が検診の未来を変え、がん治療を変えるきっかけにもなるかもしれない。いずれにしても成果が待たれるところだ。(本誌・山内リカ)
※週刊朝日 2020年1月3日号‐10日合併号