東芝が今回、発表した血液1滴からがんを判定するマイクロRNAチップは、東京医科大学医学総合研究所の落谷孝広教授(当時は国立がん研究センターに所属)がリーダーを務めたプロジェクトの技術をベースにしている。関係者によると、プロジェクトには東芝のほか、東レやアークレイといったメーカーも参加。14年度に始動したプロジェクトは18年度に終了し、現在はここで編み出された技術を、各メーカーや医療機関が持ち帰り、新たな検査システムの構築を目指して、しのぎを削っている。
ところで、がん判定の“肝”となっているマイクロRNAとは、どのようなものなのだろうか。前出の橋本氏は次のように説明する。
「マイクロRNAとは、たんぱく質の合成などを調整している重要な分子で、人では約2500種類が確認されています。細胞ががん化すると細胞内のバランスが崩れて、健康な人にはみられないような特定の配列を持ったマイクロRNAが、血液中にたくさん分泌されることがわかっています」
それを見つけることで、がんかどうかがわかる、というわけだ。
期待される検査だが、課題もある。
今のところ、東芝の開発した技術は、13種類のがんを早期に発見する「網羅的な検査」は可能だが、どのがんにかかっているかまではわからない。また、今回の発表にあたって、東芝が確認したのは「がんにかかっている人は、マイクロRNAが濃く、がんにかかっていない人は薄い」という現象。これを実際のがん検診に用いたときに、どれだけの精度が保てるかは未知数だ。これについて、東芝は次のように説明する。
「がんの識別は、今後の課題。実際の検査として使えるかどうかは、医療の専門家の方に相談しながら実証実験を進めていく。医療としての手続きを踏んでいかなければいけないし、そこは間違いのないようにやっていきたい」(橋本氏)
がん検診の専門家は、今回の発表をどう見るか。国立がん研究センターの中山富雄検診研究部長は言う。