これまでに経験した3回の五輪を、羽根田はそれぞれこんな言葉で振り返る。
「北京は年齢が若いというのもあったので、出場が決まった時点で勝負が終わっていた。ただ、出場しなければ今につながっていない。そういう部分では意味のある大会でした」
「ロンドンは出場するだけでは許されない。7位ですごく手応えもあった。メダルが少し見えてきた感覚がありました」
「リオはプレッシャーも過去2大会に比べてあったし、自分の思いも強かった。力を出せれば、もしかしたら、一つの夢、目標がかなうかもしれないと思って挑戦しました」
4年ごとの五輪で、羽根田が着実に進化を続けてきたことがわかる。
■スピードを強化 NHK杯で3位
そして、リオ後、東京に向けても様々なチャレンジを続けてきた。その一つがスピードの強化だった。筋力強化に加え、水をかくパドルを長くし、座るシートの位置を前にすることで、水をより強く、長くキャッチすることを意識した。
昨季はワールドカップ(W杯)や世界選手権で一度も決勝に進むことができなかったが、ここへきて再び手応えをつかみつつある。10月に東京五輪代表選手選考会を兼ねて行われたNHK杯で3位に入り、世界のトップレベルの選手らが参加した中で久々に表彰台に上った。
同時に4回目の五輪出場権も手にした羽根田は、表情を引き締めて言った。
「オリンピックは誰でも立てる舞台じゃない。自分のすべてを出し切って、皆さんの期待に応えたい。求められるものは、わかっているつもりです」
はっきりとは口にしないが、それは「金メダル」を意識しての発言だろう。
カヌー界の勢力図を塗り替える偉業へ向け、母国開催も大きなアドバンテージになる。新コースについて、羽根田はこう語る。
「癖のある流れ。油断するとバランスを崩す。高度な俊敏性が求められ、自分の特性が生きるコース」
加えて、羽根田も体調を崩してしまった東京の暑さには、欧州の強豪も一苦労するだろう。
何より、地元の期待をパワーに変える強靱(きょうじん)なメンタリティーを、この32歳は持っている。
※週刊朝日 2019年12月13日号