2020年東京五輪で活躍が期待される選手を紹介する連載「2020の肖像」。第11 回は、カヌー・スラロームの羽根田卓也(32)。彼にあるのは高い技術だけではない。目標達成に向けた強固な意志で、道なき道を切り開いてきた。男子カナディアンシングルで、スラローム種目ではアジア人初のメダルとなる3位に入ったリオデジャネイロ五輪から3年。「ハネタク」が2020年東京五輪で目指すものとは。朝日新聞社スポーツ部・山口史朗記者が取材した。
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照りつける太陽と、じっとりと肌にまとわりつくような重たい空気……。高温多湿の日本の夏を久しぶりに味わった羽根田は、7月下旬、数日間体調を崩した。
「こんなに暑いのは、ヨーロッパでは珍しい。いつもどおりに練習しすぎて、思ったよりも疲れが抜けなかった。そういうことも含めて、いい1カ月が過ごせました」
小麦色に日焼けした端正な顔から時折白い歯をのぞかせながら、羽根田は充実感を口にした。すっかり体調も回復した、8月4日のことだ。
この日は東京都江戸川区に新設されたカヌー・スラロームセンターを代表クラスの選手たちが試漕した。日本初の人工コースで、東京五輪の会場になる。
大会での公平性を担保するため、日本の選手も自由にここで練習できるわけではないが、7月6日の完成披露式典に合わせて帰国した羽根田も、何度か試漕(しそう)する機会に恵まれた。
例年ならこの時期は、練習拠点を置くスロバキアを中心に、ヨーロッパで過ごすことが多い。カヌーが盛んなこの地域で10年以上、己を磨き続けてきた。
海を渡る──。
羽根田がそう決断したのは、愛知・杜若(とじゃく)高3年のときだった。カヌーをやっていた父と兄の影響で9歳からカヌーを始め、中学からはジュニアの日本代表になった。だが、世界の頂点を目指して海外へ遠征に行くたび、欧州選手との力の差を痛感させられた。
特に衝撃だったのは、中学3年で初出場した世界ジュニア選手権(ポーランド)だ。
「予選落ち。世界のレベルは別次元だった。でも、やりたくなった。少しでも近づきたいと」