今オフにフリーエージェント(FA)宣言した楽天・美馬学がロッテに、ロッテ・鈴木大地が楽天に入団することが発表された。楽天とロッテの「交換トレード」の形となったが、この結末は球界に衝撃を与えた。
【写真】ロッテでは主将&選手会長としてチームを牽引した鈴木大地
ある球団の編成担当はこう語る。
「巨人が美馬、鈴木を取れなかったことは驚きです。しかも、争奪戦の相手がソフトバンク、阪神と資金力のある球団ではない。楽天は資金力がありますが……。ロッテは金銭面の条件なら巨人が絶対に上回っていた。そこで美馬がロッテ入りを決断したというのは、FAの歴史も新しい時代に入ったなと感じますね」
FA補強と言えば、巨人の代名詞だった。過去に獲得した選手は12球団断トツの26人。落合博満、清原和博、広沢克実、工藤公康、小笠原道大、村田修一、杉内俊哉、山口俊、丸佳浩――。各球団の主軸やエースを獲得するやり方は賛否両論あったが、豊富な資金力とジャイアンツというブランド力で他球団との争奪戦を制してきた。
昨オフもロッテとの「一騎打ち」を制し、広島からFA宣言した丸を獲得した。「今年のFA戦線も巨人の一人勝ちか……」という声がささやかれたが、ふたを開けてみれば予想外の結果だった。
特に驚いたのが、ロッテ入りを決断した美馬だった。原辰徳監督が交渉の席に「サプライズ出馬」し、
「簡単に言えば、『ジャイアンツで一緒にやろう』ということ」
と熱い思いを伝えていた。原監督の直接出馬が報じられたのは小笠原、昨年の丸ぐらい。指揮官のラブコールに美馬の巨人入団が予想されたが、11月15日に断りの言葉が伝えられた。
ロッテは一昔前、ドラフトの不人気球団だった。1990年のドラフトでは史上最多タイの8球団が競合した大学ナンバーワンサウスポー・小池秀郎(当時亜大)の当たりくじを引いたが、
「頭が真っ白です。ロッテの方と会うことはありません」
と小池は言葉少なに会見場を後にして入団拒否。ロッテファンは肩を落とした。
だが、29年の月日を経て状況は変わった。スポーツ紙デスクは、こう分析する。
「今の選手たちはドラフトもFAも、金銭面よりチームカラーやどれぐらいチャンスがあるかなど環境を大事にします。美馬と鈴木の決断はその典型です」
もっとも、巨人ファンからは、
「FAで取ったら人的補償で流出する。生え抜きの選手を育ててほしいので、この結果で良かった」
と前向きな意見が多い。FA補強でチームが強くなるとは限らない。ファンが望むチーム強化策も変化しているのかもしれない。(牧忠則)
※週刊朝日オンライン限定記事