当然、宝塚ファンの生徒も多く、私も誘われて大劇場へ何度か足を運んだ。越路吹雪、久慈あさみなどの男役に加え、有馬稲子、新珠三千代などの娘役で花ざかり。中でも春日野八千代、八千草薫のコンビには夢をかき立てられた。

 西洋物はもちろん、「王昭君(おうしょうくん)」など中国の物語でのひとみちゃんの可憐さは忘れがたい。そう、八千草さんの愛称は「ひとみちゃん」だった。宝塚のあの中性的な美しさは何だろう。後に講演で訪れた宝塚ホテルでお茶を飲んでいると、宝塚の生徒たちが窓の外を行き交う。異界に紛れ込んだようだった。

 八千草さんを憧れの人といってはばからない劇作家の倉本聰さんや、「岸辺のアルバム」で不倫する人妻を演じさせた脚本家の山田太一さんなど男性ファンをはじめ、私のような女性ファンから見ても、あのひとみちゃんの頃と全く変わっていない。

 変わらないということは、勁(つよ)いということだ。強さではなく勁さ、風に吹かれても決して倒れないさりげない草の勁さである。

週刊朝日  2019年11月29日号

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