今はほとんどのコールセンターで入電と同時に電話番号で検索をかけた顧客情報がPCの画面に表示される。オペレータはこの名乗りの間に情報をざっと読み込み(ベテランオペレータは過去に交渉の記録があったりするとそれにまで目を通す)このお客様がなんの用件で今電話をかけて来ているのかアタリを付ける。
それからお客様が「えっと……××の件がわからなくなっちゃって……」と要件を言うと、必ず「××の件でございますね」と復唱をする。この復唱の時間は、解決方法の検索をかける時間だ。
自分の頭の中から、もしくはわからなければマニュアルから、お客様が言ったキーワードを元に質問の答えを探し出す。そして瞬時にどう説明するかを組み立てる。
ここでの一番のポイントは、オペレータはほぼ思考せずに先程の「名乗り」と「復唱」を行っているということだ。わかりにくいけれど、つまりオペレータはなんにも考えなくてもこの言葉を口からすらすらと出せるように訓練されている。だから、喋ってはいるけれど同時に別の事を思考できる。
電話の難しさは「話す」と「考える」を同時進行でしなければならないことなのだ。そしてその時間の猶予が対面の時よりも短い。
また、実際に相手を目の前にして質問を受けているときは、相手の様子や持っている物から情報を読み取ることができるが、電話では視覚情報が無いので言葉だけで質問内容を理解しなければならない。それが電話の特殊性であり、難しさなのだ。
だから「××の件で質問があるんだけど」と突然電話が入ってきた時、大抵の人は(××ってなんだっけ?)と考える、そして考えながら話そうとする。けれど喋りながら考えるというのは実はとても難しい。だからすぐ答えられなかったり、しどろもどろになってしまったりするのだ。
オペレータはこの電話の難しさを「電話で使う語彙」を自分の中にストックすることでクリアしている。先程の名乗りや復唱以外にも電話でよく使われる語彙には「少々お待ちください」「お調べいたします」「失礼ですが××ということですか?」「お手間をおかけいたしました」「さようでございますか」といったものがある。