林:ああ、足していったんですか。
三浦:衣装合わせのときに初めて監督(今泉力哉)にお会いしたんですけど、主役である佐藤が名字だけなので、「名字だけという意味は、ごく普遍的な人間として存在しているという認識でいいですか?」って聞いたら、「それでいいと思います」って監督がおっしゃったんです。
林:そうか、名字だけの役なんだ。佐藤君、ふつうのスーツを着て、私服もそんなに垢ぬけてないですもんね。
三浦:「佐藤」のあの普遍的なキャラクターは、僕も提案しましたけど、衣装部もよく考えてくれましたし、「こんなキャラクターの人がいたら憎めないよね」とか、「自分の会社でも、ふと隣を見たら、こんな人いそうだよね」みたいなキャラクターにしたいという思いが、みんなのベースにあったと思うんです。
林:この映画、どんなふうに若い人が見るか楽しみですね。「佐藤は自分だ」と思いながら見るんじゃないですかね、若い人たち。
三浦:パンチライン(見どころ)を伝えるのが難しい作品かもしれないですけど、誰かが誰かを思いやる気持ちが重なって、それが誰かの行動を生んで、その行動が奇跡を生むという連鎖を、10年かけて丁寧に描いている作品だと思うんです。
林:なるほど。
三浦:見ていただくと、実は自分の日常生活にも思いやりがあふれていて、いま隣にいる奥さんとかご主人、友人ともちゃんと絆がつながってるんだということに気づくきっかけになるような作品だと思うんです。
林:家族の物語でもありますしね。これは仙台(宮城県)でロケしたんですか。
三浦:そうです。オール仙台ロケですね。仙台が伊坂さんの地元なんで。
林:私、大宮(埼玉県)かなと思っちゃいました。あの広い歩道橋の感じ、大宮の駅前に似てますよね。東日本大震災から時間は経ってますけど、あれだけの死と別れがあったわけだから、仙台の若者たちの心には震災の影が残ってるはずで、仙台の若者だったら、人との出会いが違ったものになったと思うんです。この映画も、仙台にした意味があるんですか。
三浦:原作は震災前に書かれてるんですよ。
林:そうなんですか。じゃあ震災が背景にある設定ではないんですね。
三浦:はい。純粋に、仙台での一つの小さな奇跡の連鎖を描きたかったんだろうなと思いますね。
林:撮影中は、仙台にずっと行きっぱなしだったんですか。