例えば、瞑想は呼吸をゆっくり深くするから、気持ちが落ち着く。本間さんが東日本大震災後に東北の小学生に呼吸法の指導をしたところ、目に見えて不安感が減少したという。

 脳から呼吸筋に一方通行で指令が伝わるだけではなく、呼吸筋からも脳に常に情報が送られている。その働きは筋肉の収縮を感知する「筋紡錘」という器官が担っている。この筋紡錘にはストレスが非常に大きく影響し、緊張するとうまく働かなくなる。緊張する会議の前などにも呼吸筋ストレッチは効果的だ。

 本間さんは能と呼吸の関係にも注目。実験室の中で能楽師に「隅田川」という演目を演じてもらい、呼吸を調べたところ、子どもを失って悲しみにくれる母親の役を演じた能楽師は、悲しい場面では呼吸が浅くなっていたことがわかった。

「お能の先達は、呼吸が変わると身体の様相が変わる、心が変わると呼吸が変わると言っています」

 そのほか、華道、茶道にも呼吸を落ちつける効果があるという。歌は七五調のものだと心も穏やかになるそうだ。心と体に大きな影響を与える呼吸。毎日、呼吸筋ストレッチを続けて、心身の健康維持に努めよう。(ライター・仲宇佐ゆり)

週刊朝日  2019年9月7日号

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