テイラーはカントリー畑の出身だが、プログラミングによるシンセ・サウンドなどにも積極的に取り組んできた。前作『レピュテーション』は、エレクトロ・ポップ、ファンク、ヒップ・ホップ的な要素を積極的に取り入れ、かつてのカントリー系のシンガー・ソングライターとしてのイメージを打ち破った。
今回の『ラヴァー』はポップス的な要素が目立つ。表題曲「ラヴァー」はその最たるものとして挙げられる。3連のロッカ・バラードで、ドラムス以外、ギター、ストリングスは控えめ。テイラーの歌とコーラスに焦点があてられている。曲調自体、フォークやカントリーでのストーリー・テリング的な曲に通じるものがある。
その歌詞は彼女の現在のパートナーであるジョー・アルウィンとのことが背景にあるとされ、結婚式をにおわせるエピソードが織り込まれていたことから、二人は結婚するのかと話題になった。
ディクシー・チックスとの共演による「スーン・ユール・ゲット・ベター」は、がんで闘病中の母親に捧げた曲だ。願いを込めるような歌い方が印象深い。もう一曲、聴き逃せないのが、過去を振り返り“あなた”との出会いに“陽の光が見えてきた”と歌われる「デイライト」。
本作に収録された曲から、怒りなどむき出しの感情を含め率直な歌詞表現など、誠実さがくみ取れる。ポップな音楽展開とあわせ、より幅広いファン層に親しまれるに違いない。(音楽評論家・小倉エージ)