ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は大相撲観戦について。
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いま大相撲をしている(名古屋場所? この文が掲載されるころは場所が終わり、たぶん誰かが優勝しているような気がする)。
わたしは昼ごろに起きてぼんやりと食卓に座り、なんとなしにテレビをつける。するとBSで幕下あたりの相撲をしている。幕下力士の取組は相星同士だから、どちらが有利ともいえず、見た感じで勝敗を予想してみたりする。たいていは齢の若そうなほうを勝ち、ぶよっとしているほうを負けと予想するのだが、双方が大きく負け越していると仕切りや目付きに覇気がなく、どちらも負けそうな感じがして、よめはんに訊いたりする。
「な、この勝負、どっちが勝つと思う?」
「左とちがうかな。へそがあるし」
「へそ? どういうことや」
「ほら、右のひとはへそがないやんか」
よめはんがいいたいのは、へそがまわしで隠れているかどうかということだった。
「へそが見えたらどうなんや」
「お腹の肉がだぶついてないということやろ」
「ほんまかい……」
それから十両の取組に入るまで力士のへそばかり見た。見えるのが六割、見えないのが四割ほどか。腹の大きさとだぶつき具合はあまり関係がなく、まわしの位置と締め方(つまりは力士本人の好みと戦術)だろうと、とりあえず判断したが、胴長短足の力士のほうがへそが見える傾向はあった。
「しかし、相撲をへそで見るてなことはハニャコちゃんだけやな」
「へそのない人間の裸て、変やんか。カエルでもないのに」
「カエルは相撲なんかとらへん」
「鳥獣戯画のカエルはとってる」
「あれはカエルとウサギや。ウサギにはへそがある」
「それって、ずれてるよね、論点が」
ずれてるのはあんたや──。思ってもいわない。怖いから。
相撲といえば、わたしは年に一回、大阪場所に行く。友だちに枡席をとってもらうのだが、四人で行くと狭い。膝の上に弁当を広げて缶ビールなんか飲んでいると、ほとんど身動きができない。ほんとうは横になってパイプか葉巻でも吸いながら見たいのだが、できるはずもない。それに正直いって、弁当は新幹線の車内販売で買うそれと同程度の味か。