ほな、あんたはなんで本場所に行くんや。
本物の生きた力士を間近に見られるから──。
立ち合いのぶつかり音がすごいから──。
このふたつだけだ。現場にはスローモーションによるリプレイもなければ解説もない。そう“リアル”はあっけない。淡々と取組がすすみ、時間がすすむ。
知り合いの病院理事長が片男波部屋を応援しているので、よめはんとふたり、その食事会に呼ばれたことが何度かある。
親方の元関脇玉春日も大きいが、現役の玉鷲はもっと大きい。ふくらはぎはわたしの太股より太いし、手はグローブ、手首は牛乳パックほどもある。体全体が筋肉の鎧をつけているようで、
「あんなのが突進してきたら、おれはバラバラやな。全身粉砕骨折」となりであくびをしているよめはんにいうと、
「あのね、ピヨコちゃん、誰もあんたに相撲をとれとはいわへんのよ。カエルとウサギやあるまいし」
焦げた焼肉をぱくっと口に入れた。
※週刊朝日 2019年8月2日号