そのまま漁師になるのかなと思ってたけど、ひとつ問題があったんだよ。とにかく船酔いがひどかった。4年ぐらいやったけど、こりゃもうダメだと思って、高校1年のとき逃げ出して士別の家に帰った。
士別に戻ったが、「何となく高校を出ても、中途半端なことしかできない」と思い、上京を決意したという。
東京に出て7年目ぐらいにボクシングを始め、28歳で世界チャンピオンになった。6回防衛したけど、7回目に15回KO負け。自分では立ち上がれないほど、コテンパンにやられた。病院に運ばれて、そのまま入院だよ。
あのときはオーバーワークで、体が動かなかった。相手に負けたわけじゃない。
そう信じていたから、あそこで引退するわけにはいかなかったな。
3日で病院を飛び出して家に帰った。点滴じゃなくて、口でものを食べないと胃腸が弱っちゃう。最初は食べたものを吐いてたけど、徐々に食べられるようになってきた。
もう結婚しててね。「これ以上やって死んじゃったらどうするの」ってカミさんには反対された。そのうち何も言わなくなったよ。「バカじゃないの」って思ってたらしい。いや、バカなんだけどさ(笑)。
――敗北から7カ月後、同じ相手に雪辱。ふたたびタイトルを獲得した。初防衛戦で韓国の柳に7回KO負けを喫したが、8カ月後にまたも雪辱を果たし、みたびチャンピオンになった。
もう引退したほうがいいって言う人はたくさんいた。3度目の世界チャンピオンになったときも、このまま引退しろ、そうすればいつまでもチャンピオンでいられる、なんて言う人もいた。実際そういう辞め方をしたボクサーもいたけど、俺とはわかり合えないな。「あいつはまだ金が欲しいのか」なんて声も聞こえてきたけど、意に介さなかったよ。
金の問題じゃないんだ。
勝って辞めるなんて、勝負師としてそんなひきょうなことができるか。参った、もう戦えない。そうなってから辞めるのが勝負師じゃないのか。勝ったまま辞めたら、ボクシングやってきた自分に申し訳が立たない。そう思ったんだ。