たとえ一回でもいい、新入社員に対して『ビジネスのノウハウ』ではなく『正しい日本語の会話』を知らしめる講座があれば、見れる、来れる、食べれる、といった“ら抜き言葉”も少しは減るのではないか──。
友だちどうしや気のおけない仲間の中で行き交う“ら抜き言葉”はまったくかまわない。言葉は時代とともに変化するし、省略され、短くなっていくものだから。
しかしながら、ビジネスの場において、クライアントに“ら抜き言葉”や“ほう・ほう”を連発するようでは、その人物と会社が軽く見られてしまうのではないか──。
わたしが作家専業になってまもないころ、担当の若手編集者とその上司と三人で、沖縄へ取材に行ったことがあった。那覇の料理屋に入って、編集者がメニューを手にしながら、
「黒川さんはヤギ汁とか食べれますか」といったとき、上司がすかさず、
「食べれますか、じゃない。食べられますか、だ。出版社の編集者がそんなものいいをするんじゃない」と、ぴしりといった。
なるほど。これが社員教育や──。わたしはいたく感心し、自分の小説でも“ら抜き言葉”は絶対に使わないと心に決めた。
NHKをふくむテレビ番組のレポーターにいいたい。「こちら、~になります」はやめましょう。
※週刊朝日 2019年6月21日号