定年後も長く働き続ける人が増える中、最近注目されているのが新しいタイプの「企業顧問」だ。現役時代に培った経験や専門スキルを主に中堅・中小企業で生かす道だ。人手不足などで企業側の期待は高く、派遣ビジネスも拡大している。どんな人が顧問になり、どんな人が向いているのか。
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都内に住む勝倉秀一さん(67)は週1回、JR秋葉原駅の近くにある通信機器メーカーに通う。肩書は「研究開発部 顧問」。製品開発をするエンジニアの相談にも乗るが、決まって請け負うのは、機器の故障など不具合が起きたときに相手先に出す報告書づくりだ。
「BtoB(企業間取引)が中心の会社なので、大手を含む企業がお客さんです。不具合の原因究明と今後の対策が報告書づくりの柱ですが、意外とこれ、書くのが難しいんです。どこまで詳しく書くのか、どんな表現を使うのかなどで、すごく気を使うからです」
勝倉さんは通信機器に強いエレクトロニクスメーカーの出身。米国やベトナムなど海外勤務も経験したが、50歳を過ぎたころから、この種の報告書づくりの仕事が多くなった。
「その経験が、今の顧問としての仕事に生きているわけです」
60歳の定年で勤め先をきっぱり辞めた。興味に従っていろいろなことに手を出しているうちに、フェイスブックでこの会社の社長と「再会」した。何と社長は、若いころ勝倉さんの会社に勤めていた元同僚だったのだ。
「久しぶりに会うとスポットの仕事をいくつか頼まれました。そのうち、『手伝ってくれませんか』となりました。会社員に戻るつもりはなかったので、肩書は顧問に。まったくの偶然で、まさに『ご縁』でしたね」
1年前までは実質週3日働いていた。体もきつくなってきたので仕事量は減らしたが、当分は顧問を続けるつもりだ。
企業の「顧問」というと、役員や部長を務めた大物が、「顔役」的な役回りを期待されて子会社や関連企業に天下るイメージがある。もちろんそんな顧問も相変わらず多いが、いま増えているのは勝倉さんのように、現役時代に培った経験や専門スキルを生かして、企業の顧問に就任するケースだ。