そのやり口は、官僚の間で多用される「相場観操縦」という伝統的手法だ。
まず、前述した、既に負けが決まっている項目については、既定路線として、日本側が争っていないように見せかける。
下手に何かを取りに行っていると見られると、それを取れなかったときに「負けた」と言われるので、それを防ぐのだ。
交渉前から、農産物関税をTPP水準までなら下げると「自ら」宣言して、まるでそこまでなら譲歩ではないかのように振る舞う。鉄鋼・アルミ関税についても、負けにならないように議題に上げず、マスコミに気づかれないようにしている。自動車も、米側が喜ぶようなことを「自ら」差し出す姿勢を示して、大きな譲歩なのに、大した問題ではないと錯覚させる。
さらに、米側は、「TPP以上の関税引き下げ」や「日本の自動車輸出自主規制」「為替条項」などを要求しているなどと日本の厳しい状況を演出し、それをどこまで食い止めるかがポイントだと解説する。これにより、どんな結果が出ても高い評価が得られるように「相場観」を下げるのだ。
その結果、農産物関税引き下げがTPP並みで、自動車輸出自主規制回避なら、日本側が何一つ取れなくても「安倍総理のおかげ」と拍手喝采になるだろう。
政府の情報操作に騙されないように気を付けたい。
※週刊朝日 2019年5月31日号