鈴木教授が「顧客満足度は球団業績の先行指標」と話す通り、近年の広島の業績は好調だ。平成30年の決算は、売上高が189億4230万円で、5年連続で過去最高を更新し、当期純利益は9億3020万円で44年連続の黒字。セ・リーグ3連覇の偉業を成し遂げたチームの実力だけでなく、地元重視の堅実経営を花開かせている。

 選手の育成でも、広島と巨人は明暗を分けている。東京商工リサーチ情報部の松岡政敏課長は「広島はFA(フリーエージェント)制度を使って、お金をかけて実績のある選手を獲得するのではなく、自前で選手を育てる『育成』にこだわり続けてきた。即席で戦力を強化し、勝利という結果を求めるのではなく、フロントや監督、コーチ陣が長期的な視点で選手を獲得・育成していることが現在の強い広島を実現している」と話す。

 これと対照的なのが、巨人だ。坂本勇人岡本和真ら生え抜き選手の成長もあるが、FA制度などを利用した選手獲得に投資を惜しまない。V奪還を目指す今シーズンへ向けても、広島から主砲の丸佳浩西武から炭谷銀仁朗、オリックスから中島宏之、メジャー帰りの岩隈久志を獲得した。

 しかし、平成に入り、プロ野球で実績を積んだ超一流選手が目指すのは、巨人ではなく、メジャーである。野茂英雄が切り開いたメジャーへの道は、イチローや、巨人の顔だった松井秀喜も後に続くようになった。

 ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)などの世界大会も注目されるようになり、「野球での成功=巨人のユニホームを着ること」ではなくなってきた。近年は、巨人の大型補強で目立った成功例は少ない。

 ただ、鈴木教授は「これまで球界を支えてきた巨人の復活は、令和時代のプロ野球繁栄の大きなカギを握る」と見る。顧客満足度調査でも、巨人ファンは他の球団のファンに比べて期待値が高いという。日本一になって初めて満足するという常勝軍団を宿命づけられたチームであるがゆえに、目先の勝利にこだわり、長期的視点での育成ができないというわけだ。

 鈴木教授は「今、チーム力、育成力、ファンサービスなど総合力が高いのはソフトバンクだが、巨人も匹敵する潜在力を持っているのは間違いない。目先の勝利だけでなく、アジアを中心としたグローバル戦略や女性ファンの獲得など、新しい市場を開拓する日本のプロ野球のリーダー役としての期待が大きい」と話している。(ライター・小島清利)

週刊朝日  2019年4月19日号